第4話
ベルが室内に鳴り響くと、ヘレナが料理を運んでくる。
最初に出て来たのは、透明感のある美しいスープ。
「……具材がない」
髪を切ったことで、表情が見えやすくなったエリは不満だと、言葉だけでなく顔でもわかりやすく訴えかけてくる。
「あらあら、そういうスープなんですよぉ。まずは飲んでみてください」
仕方がないと、スープを持ち上げて皿から啜ろうとすると、ヘレナに笑顔でスープを差し出さられる。
拙い握り方でスプーンを受け取ると、透明な汁を掬い上げて、口に運ぶ。
不満気だった表情は高揚して、足を大きくばたつかせる。
ヘレナが止める間もなく、食器を持ち上げると皿からスープを一気に飲み干してしまった。
「あらあら」
困った様子のヘレナを他所に固い表情をしていた、ミリアは呆気に取られた後に少し、表情を緩める。
「構わない。好きにさせろ」
「そうですかぁ?」
「おかわり!」
やる気がなさそうな少女が一変、ハツラツとおかわりを要求してくる。
「その食事には順番がある。パンでも食べて次を待っていなさい」
しょぼくれながら、エリはパンを口にしてみるが、首をかしげる。
「パンは口に合わなかったですかぁ?」
「……野菜屋さんの隣にあるパン屋がお勧め」
「生意気にパンの味には煩いのか。変な娘だ」
「今度、試しに買ってきますねぇ」
続けての品はサラダとなり、リリーが配膳をする。
「……草か」
これはスープとは違い、口をつけても不満気な顔のままモシャモシャと咀嚼して早々に片付けてしまう。
続いて出されたのは、魚料理ではあるが、ヘレナが気を遣って事前に切り分けられた物が出される。
魚はお気に召したようで、これも嬉しそうに食べ進める。
「……美味し」
続いて出された、シャーベットの口直しについては不思議そうな顔でとりあえず完食する。
「……意味不明」
薄く優しい味となる口直しに対しての、エリの独特の評価かに各々が少し噴き出して笑ってしまう。
メインとして肉も同様にヘレナが小さく切り分けた物が出された。最初こそ訝し気にフォークで突いていたが、それを口に運ぶと驚き、嬉々として口に運ぶ。
「……口の中で溶ける」
肉も一気に平らげると、最後はデザート。
果実がふんだんに使われたタルトが出されると、フォークではなく手づかみで口に運び、椅子から転げ落ちたが、見事にタルトは死守していた。
食事については、頭にたんこぶを作りながらも、つつがなく終了する。
食後にミリアとエリの前にお茶が出される。
ヘレナが気をつかっていくつか砂糖を入れてくれたものを出してくれ、エリは匂いを嗅いだ後に慎重に口に運ぶ。
「……興味深い。でも白いのをもっと」
「入れすぎはダメですよぉ」
砂糖を要望したが、あっさりとヘレナに却下されてしまう。
リリーは席を外すように言われて、残っているのはミリアとヘレナ、彼女らに見えはしないが変人も同席している。
「それで、私は盟約に従い、お前を助けたよ。施しは以上となるが幾つか聞きたいことはある。お前はその言葉をどこで聞いた」
空気が張り詰める。ミリアの気難しそうな顔はそのまま強い圧を感じるが、ヘレナのニコニコとした笑顔もどこか奥深くにプレッシャーを感じる。そんな空気の中で、エリは平然とお茶を啜り、興味深いと続けている。
『エリよ、少しは空気を読んだらどうだ。シリアスな感じになってるであろう』
「……本当にパンより美味しい物が存在していた。私はもっと食べたい」
『おお! そうであろう! 我の研究を手伝えは、こんなもの食べ放題だぞ』
「……食べ放題」
一人でブツブツと呟く、エリに警戒をしていた自分達が馬鹿みたいだと顔を見合わせる、大人の女性陣。
明後日の方向を見ていた、エリが対面していた女性陣に向き直ると、抑揚がない口調で自信ありげな言葉を紡ぐ。
「……私は役に立つ。証明するので紙とペンを所望する」
そのくらいならいいでしょうと、ヘレナに用意させた紙に汚い字ではあるが、スラスラと何かを描き始める。
ミリアは受け取った紙を見ると驚きの表情を浮かべる。
「驚くほど汚い字で見にくいが、これは大賢者様の書物に記載されたいた魔術論? それを改善した内容になってる?」
『ガハハ! 伊達に長い年月、幽霊やってはいないわ! お前らが日々研鑽している間、私もまた研究を続けていた! 検証などはできていないので、机上の内容だけになるが、それでも革新的であろう! どれ、エリよ。過去に記載した書物の内容も出してやれ』
エリは顔を顰めると、面倒臭そうに別の紙に何かを描き始める。
ミリアは我慢ができないのか、席を立ち、横からそれを覗き込む。
「字が汚い。でもこの内容は、大賢者様の魔術論で限定的な者にしか公開をされていないはず。貴女は何者なの」
「……私は役に立つ」
「対価は何を求める」
「……ご飯」
「いいだろう。お前を我が家の司書として招き入れよう」
「ご主人様、よろしいのですか?」
「毒かどうかはわからないが、こんな物を出して来たんだ、手元に置かない理由はない」
「あらあら、あのご主人様が念願のお弟子さんを取るなんて!」
「弟子ではない。司書だ」
「……帰る」
「家はあるのか」
「……うん」
ミリアもエレナも本当に? と顔を合わせて首をかしげる。
「ご両親はいるってことなのぉ?」
「……いない。今は一人」
『私もいるので一人ではないぞ!』
「だったらどこで寝てるのぉ?」
「……木の上」
エレナは固まってしまい、ミリアは頭痛でもするのか、こめかみを手で押さえる。
「今日からここに住みなさい。衣食住と働きに応じて賃金も支給しよう」
「……わかった。でも服はいい、前の返して」
「どうしてだ」
「……服が立派だと稼げないから」
「もう物乞いの真似事をする必要はない。服も綺麗なものを着ていろ。不衛生な状況が続けば食事も提供しないから、肝に銘じておけ」
「……わかった」
ヘレナに後は任せたと、エリが書いたものを持って食堂から出て行ってしまう。
エリは案内されるままに、一つの部屋に入る。
思った以上に広いが、その大半を書籍が埋め尽くしており、クローゼットとタンス、ベットに広めの机と子供には持て余しそうな豪華な作りとなっている。
「ここは、ご主人様のお師匠様が使っていた部屋なんですよぉ。私達は使用人は母家とは別にある、裏の建物にいるけども、そこの呼び鈴を鳴らしてもらえれば来ますから」
「……わかった」
「寝るときはここのボタンで光も暗くてきますからねぇ。それでは、おやすみなさい」
エレナが出て行った後に部屋の中を見渡す。上等なベットに机、触ったことがないような魔道具。
試しに教えてもらったボタンを操作すると、光が消えたり、点いたりする。
『私についてきてよかったであろう! ガハハ! それでは私が指示するに本をまとめていくのだぁ! って何を寝ようとしている!』
「……おやすみ」
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