第11話 そして本番
体育祭のクライマックスであるリレー競技が、いよいよ始まろうとしていた。スタートラインに立つ四人の心は、それぞれが抱える緊張と期待でいっぱいだった。これまでの練習と友情が自分たちを支えてくれる――そう確信しながら、彼らは深呼吸をし、スタートの合図を待っていた。
花音の視点:
第一走者の花音は、バトンをしっかりと握りしめ、自分に言い聞かせた。「失敗しないように、冷静に…」。普段はおっとりとしている彼女だが、この瞬間だけは違う。チームメイトの顔を思い浮かべ、集中力を高めていく。スタートの合図が鳴り響くと同時に、花音は一気に飛び出し、全力で走り出した。風が頬をかすめ、トラックが一瞬で過ぎ去っていく。練習通りに足を運びながら、彼女は和真の姿を目指してまっすぐ進んだ。バトンを渡す瞬間、わずかな緊張が彼女の手に伝わったが、和真の力強い手がそれを受け取ったことで、ほっと安堵の息をついた。
「ナイス、花音!」
「うん、次は任せたよ!」
短い会話だったが、二人には十分だった。次の走者である和真が全力で走り出す姿を見送りながら、花音は自分の役割を果たした喜びを感じていた。
和真の視点:
バトンを受け取った和真は、一瞬の迷いもなく力強く地面を蹴り、猛スピードで走り出した。「ここで流れを絶対に途切れさせるわけにはいかない」。彼はそう心に決め、前方の美月に視線を定めた。短距離に自信のある和真は、全力でライバルたちを引き離していく。周囲の歓声が遠くに聞こえるが、彼の意識は完全にレースに集中していた。やがて美月に近づくと、確実にバトンを渡しながら、彼女に静かにエールを送った。
「美月さん、頑張って!」
「うん、任せて!」
和真は自信を持って彼女にバトンを託し、次の走者へと期待を繋いだ。
美月の視点:
バトンを受け取った瞬間、美月の心臓は一気に高鳴った。彼女は「みんなの期待に応えなきゃ…でも、大丈夫、練習通りにやればいい」と自分に言い聞かせる。緊張が彼女を一瞬包み込んだが、足が自然と動き出したことで、少しずつ冷静さを取り戻していった。風を切る感覚が心地よく、練習の日々が頭の中を駆け巡る。彼女は「リラックス、リラックス」と心の中で繰り返しながら、力強く前へと進んでいく。やがて、ゴール間近にいる勇斗の姿が見えたとき、彼女の表情には自然と笑みが浮かんでいた。バトンを確実に勇斗に渡し、彼女は大きく息を吐いてその場に座り込んだ。達成感が胸に広がる中、彼女は残りのレースを見守った。
「美月、ナイス!」
「勇斗、お願いね!」
勇斗の視点:
最後の走者となった勇斗は、美月からバトンを受け取り、全力でスタートを切った。風を切る音が耳を突き、彼の視界にはゴールラインだけが映っていた。「このレース、俺が決めるんだ…!」。勇斗はそう心に誓い、ゴールへ向かってひたすら突き進んだ。周囲の応援が聞こえるが、彼の意識はただ前だけを見つめている。ゴールが近づくにつれ、彼の足はさらにスピードを上げた。そして、最後の力を振り絞ってゴールラインを駆け抜けた瞬間、勇斗は大きく息を吐き、達成感に包まれた。
観客席からは大歓声が沸き上がり、四人はそれぞれの場所で喜びを分かち合った。花音、和真、美月、そして勇斗――彼らは全力で走り抜けた自分たちを誇りに思い、互いに笑顔を交わした。この日のために重ねてきた努力が報われ、彼らは見事に1位を勝ち取ったのだ。
この瞬間、四人の絆はさらに深まり、彼らの心には新たな友情と信頼が刻まれた。
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