第二章 私は超能力を手に入れた

十七話

「おはようございます。朝食の時間になりましたので、食堂に集まってください」



「…………」

 5日目。アナウンスで、半ば強引に起こされる。

 正直言うと、もっと寝ていたい。

 昨日は結局何も食べずに寝てしまった。結衣の死が頭から離れられなくて食欲がない。

 でも、心は食べたくなくても、生きるためには食べないといけない。


「あ、乃亜さん……おはよう、ございます」

「おはよう……」

 食堂に行くと、彩香に声をかけられる。昨日あんなことがあった割には、いつも通りだな。

 彩香は私に似てるような感じで、引っ込みな思考なところがあると思ってたけど、想像よりも強いのかもしれない。

 そんなことを考えていると、ある人物が椅子に座っているのを見つけてしまう。

「結衣?顔色悪いけど……」

 …………え?

「ああ……ちょっと、ね」

 …………えぇ?

「そ、そう?……もし何かあったら、言ってよ?」

「…………」

 どうして……結衣がいるのだろう。

 昨日と同じく、顔色が悪い結衣がそこにいる。

「あ、あの……結衣さん?」

「……なに?幽霊でも見たような顔してるけど」

 ……いや、今見てるんですけど。

「えっと……大丈夫なんですか?」

「はは……っ、これくらい、大丈夫だよ」

 どうやら体調のことを心配されていると思われている。まあ、それもあるが……。

 思い出したくはないが、食事が終わると結衣はどこかに行ってしまう。

 その後部屋を見に行くと、死んでいたのだ。

 まさか……これって、昨日?

「……ホントにどうしたんですか?」

「大丈夫だってば。ほら早くご飯食べないと冷めるよ」

「…………」

 そのことについては触れられたくないようだ。

 仕方なく彩香の隣でご飯を食べることにした。


 食事中も結衣のことは視界に入れていた。

 そして食事が終わると、結衣は食堂を後にする。

「結衣さん……」

 もし昨日だとすると、この後私は彩香と一緒に結衣を捜索する。

 最終的に部屋に行くと、結衣が死んでいたのだ。

 ……部屋に行ってみようか。

「結衣さん……ッ」

 お願い、死んでる姿を見たくないの。だから、開かないで。


「……ッ」

 その願いは届かず、結衣の部屋の扉が開いてしまった。

「……やっぱり、昨日だ」

 ここで確信した。私は、時間を移動している。

「……何も、できなかった」

 結衣が死なないようにするために、私は何ができるって言うの?

 「あれ、なんで乃亜がここに……え?」

 数分してやってきたのは藍良と茉希だった。

「うわ……っ、死んでるよ」

 ……どうしたら良かったんだろう。

「どうして……一体、何があったって言うのよ!?」

 藍良がその光景を見て、壁をドンっと叩いた。

 ……そうなるのも分かるよ。

「あんれー、みんなどうしたのー?」

 と、数分してやってきたのは夏希だった。

「あれ、なんで結衣ちゃんの部屋開いてるの?」

「な、夏希……っ、結衣が……結衣が、死んだ」

 結衣の死を、藍良が夏希に伝える。

「えっ、ほんと?……あわわ、ホントだ」

「人が死んでるのに、よく落ち着いてられ……。いや、私も落ち着かなきゃ」

 昨日と、同じだ。同じ言葉。

「……待ってて。物置からシーツを持ってきて、結衣に被せてあげるから」

「……これって、他殺なんですか?」

 藍良が物置に行っている時に、彩香がポツリとそう言う。

「……私がここに来たら、部屋が開いて死んでたの」

「みんなの部屋はオートロックだから、外からは開けられないんだよ。だから、他殺はあり得ないでしょう」

 茉希がそう説明してくれる。

「ほら、持ってきたらかけてあげて」

 結衣が死んだのは、他殺なのか、それとも自殺なのか。他殺だとしたら、一体誰が?自殺だとしたら、どうして?

 そんなことを考えていると、藍良がシーツを持ってきた。

 私たちはそのシーツを、死体と化した結衣にかけてあげた。その貌は、とても残酷で、泣いているようにも見えた。



「時間を移動したのは……これのせいかも」

 部屋に戻ってきた私は、どうやって時間を移動したのかについて考えてみることにした。

 一番可能性があると考えたのは、この腕輪だった。

「昨日はこれを切っちゃったんだよね」

 このよく分からない機械の突起に引っかかって、意図もせずに切れてしまった。

 そして、その腕輪をくっつけて、過去に戻りたいって思ったんだっけ。

 ……もし、それでもう一度、結衣が死ぬ日に戻れるのなら。

「……んっ」

 腕輪を意図的に切ってやった。





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