十八話

「……戻ってこれたかな」

  時計を見てみると、朝食の時間になっていたので恐らく戻れただろう。

「結衣さん……」

 一体、結衣に何があったのだろう。

 心配の中、食堂へと向かう。


 食堂に来ると、依然と同じく顔色の悪い結衣が俯いていた。

「結衣さ——」

 声をかけようと思ったけど。結局、「大丈夫」の一点張りだったんだよね。

 無理に声をかけても、うっとおしがられるだけだし。

 私は声をかけるのをやめて、なんとなしに結衣の隣に座ってみた。

 隣に座った私を見て、少し驚いたような顔をしたが、特に何かを言ったりはしなかった。

「……ごちそうさま」

 と、誰よりも早く朝食を済ませたのは結衣だった。

「あ、結衣さん……っ」

 食器はそのままで、ヨロヨロと食堂を出て行ってしまう。

「待って……ッ」

 私は、朝食を残して結衣の後を急いで追う。

「待って結衣さん!」

 自分の部屋に入ろうとした結衣を、大きな声で呼び止める。

「……ん?あぁ、乃亜ちゃん」

 明らかに顔色が悪いのがハッキリと見て分かる。

「結衣さん、今日はいつもより体調悪そうですけどどうしたんですか?」

 私は、どうして結衣の体調が悪いのかを訊いてみる。

「……」

 けれど、結衣は何も言わず上の空を見ている。

「あの……余計なお世話かもしれないけど、何かあるなら言ってほしいです。少しでも、あなたの役に立ちたいから」

「……っ」

 私がそう言うと、結衣は少し目に涙を浮かべた。

「……ありがと。ねぇ、ここで話すのもアレだから、私の部屋来て」

「えっ、良いんですか?」

「うん。……少なくとも、乃亜ちゃんだったら、頼れるかなって」

「……」

 どうやら結衣は、何か困りごとがあるようだ。

 ……よし。これで、結衣の困りごとを解決できれば、死ぬ未来を変えられる。


 結衣の部屋にやってきた。

 どうやらみんなの部屋は同じらしい。私の部屋と同じく、入口から入って右側にはロッカーとゴミ箱。そして、向こう側の右には簡素なベッドが壁側に、左側にはよくわからない機械があった。

 私の場合、この機械の前でリストバンドを切ると過去に行けるんだよね。

「ええと……何から話したらいいのかな」

 と、結衣がベッドに座り小さくぼやく。

「話したいことがあれば言ってください。それまで、私は待ちます」

 ゆっくりでいいんだ。結衣が、しっかり話ができるまで、私は待つ。

「私ね、不安なんだ。一体、いつ誰かが殺し合いを始めるのかなって。もし、それが……最初が私だったらって考えると、怖い」

「…………」

 数分後、結衣はそんなことをゆっくりと話し始めた。

「……大丈夫ですよ。私も、そんなことを考えてますから」

「……やっぱり。もう、こんな生活耐えられないよ。いつ死ぬのか分からないんだから」

 それは、私だけではなく他の人だってそう思っていることだろう。

 そればっかりは、どう対処したらいいか分からない。とにかく、皆が殺し合いをしないように、ただひたすら祈るしかなくて。

「結衣さん」

 私は、身体を震わせている結衣の傍に座る。

「私に、言ってくれましたよね。お風呂の時に」

「お風呂の時?」

 私が言うと、結衣は身体の震えを止めた。

「誰一人死なせないって。あの時の、勇敢な結衣さんはどこ行っちゃったんですか?」

「……っ」

 そう言われ、結衣は少し笑顔を取り戻した。

「ははっ……そう、だね。ごめん、弱気になっちゃって」

「いいんですよ。一日でも早く、脱出できるように頑張りましょう。ほら、約束です」

 私はそう言って、指切りげんまんのポーズをした。

「ふふっ……約束」

 結衣の顔が、段々といつも通りに戻ってきた。

「ありがと、乃亜ちゃん。ねぇ、よかったらトランプでもしない?昨日色々探し回ってたらあったの」

 すると、結衣が立ち上がりロッカーの方へ行ったと思ったら、トランプを持って再び隣に座った。

「いいですね。でも、二人だけじゃつまらないですし、せっかくならみんなでやりましょうよ」

「うん。そうしよう!」

 昼食終了後、皆で三階のラウンジへと移動しカードゲームをした。

  

 

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