十六話

「……あれ」

 気が付くと、そこは自分の部屋だった。

「……?」

 周りを見渡すが、誰もいない。自力で部屋に戻ってきたのだろうか?

「あー……こほん、大丈夫?」

「わ……っ」

 急に声を掛けられびっくりしてしまう。

 声のした方を見ると、そこには藍良が立っていた。

「失礼、驚かせるつもりはなかったんだけど」

「あ、いえ……ごめんなさい」

どこから現れたのだろう。びっくりした。

「とりあえず、大丈夫なの?」

「は、はい」

「ならいいんだけど。……私たち、ラウンジにいるから。何かあったら来て」

「…………」

 藍良がこんなにも親切だとは思わなかった。ちょっとトゲのある女の子だと思っていたけど……。

 なぜかこんな状況でも、どこか信じられない自分がいた。

 藍良が部屋を出て行く。

 一人は落ち着く……誰にも裏切られない。

 

 恐ろしいことが起きてしまった。


 まさか、結衣が部屋で死んでいたなんて。


 その光景を見ただけで気絶するところだったのに、今となっては神経が昂って眠れる気がしない。

 これからどうなるのだろう。私、死ぬのかな。

 部屋の中を意味もなく歩き回る。余計なことを考えてしまいそうになるのを動き回ることでごまかす。


「……あ」

 

 動き回っていると、機械の突起に腕輪が引っ掛かり切られてしまった。

「……どうしよう」

 腕から外れてしまったことで、部屋の鍵を開けられなくなってしまったと焦る。

 急いで拾って、何とかくっつけようと思う。

「ええと……あ、接着剤」

 倉庫を見て回った時に拾っていた接着剤があったことを思い出す。すぐさま接着剤を取り出し、切られた部分をくっつけた。

「……はぁ」

 扉にかざしてみる。扉は開いた。

「……結構危ないな」

 もし、腰についているチューブを切ったと考えると……震えが止まらない。

 わけが分からない。それが私の率直な気持ちだった。


 目が覚めたらよくわからないところにいて、そこには同じくらいの女の子がいて、ここから出られるのは一人だけだと言われて、そして、一人の女の子が死んだ。


「結衣さん……」

 死んだ理由が分からない。それに、どうやって死んだのかも分からない。

 私には自分を貫き通すような強さはない。自分の意見をどんどん言えない。

 そもそも、自分には意見が無いのかもしれない。

 前を見ることが出来ずに、後ろだけを見てしまう。今だって、昔に戻れたらと思う。

 お父さんが死ぬ前に戻れるのなら。あの日、私が買い物に行こうなんて言わなければ、車に乗って行くこともなかった。

 友達が私の陰口を言ってる前に戻れたら。あんなに心を許すようなことはしなかった。心が傷つかないように友達を演じられた。

 ここに来る前に戻れたら。

 結衣が死ぬ前の、ただ不安だっただけの朝に戻れたら。

 過去に戻ってやり直しが効くのなら。

「…………」

 時間が戻ればいいのに。


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