十五話

 四日目。


 今朝も「いつものアナウンス」で起こされる。

 ……四日目で、もう慣れちゃったかな。

 まあ、朝は少しだけポジティブになれる。


「あ、乃亜さん……おはよう、ございます」

「おはよう……」

 食堂に行くと、もうすでに他の人たちは集まってご飯を食べていた。

 挨拶をしてきたのは彩香だった。

 ちょうど彩香の隣が空いているので、軽く朝食を皿に取って座った。

「結衣?顔色悪いけど……」

 と、結衣に心配そうに声をかけたのは茉希だった。

「ああ……ちょっと、ね」

 確かに結衣の顔色が悪い。食あたりでも起こしたのだろうか?

 いやでも、ここの食事は衛生管理されてるはずだし……。

「そ、そう?……もし何かあったら、言ってよ?」

「…………」

 茉希がそう言うが、結衣はずっと下を向いたままだ。

 一応食事は用意してあるが、ほとんど手を付けていない。

「……大丈夫かな」

 私も結衣のことを心配していた。


 食事が終わり、みんなそれぞれどこかに行ってしまう。

「結衣さん……」

 そんなことよりも、私は結衣の体調が心配だった。

 頭が痛い、とかであれば救護室にある鎮痛薬で何とかなるんじゃないかな。

 とりあえず結衣の所へ行こう。

「あ、彩香さん」

「……はい?」

「ちょっと結衣さんのことが心配で……一緒に見に行きませんか?」

 一人で結衣の所に行くのもちょっと心寂しい。

 そのため、昨日一緒に行動した彩香も連れて行こうと考える。

「ああ……別にいいですけど」

 私がそう言うと、彩香はすんなり了承してくれた。

「じゃあ、結衣さんはどこにいるのかな」

「まずは救護室を見に行きましょう。体調が悪いとなれば、救護室で休んでるんじゃないんですかね……?」

 確かにそうかもしれない。


「結衣さん?」

 救護室に入り、結衣の名前を呼んでみる。

「…………いない?」

 だが、何も反応は無し。

「うーん……ほかにいそうな場所はどこかな」

「……そもそも、結衣さんはどうしたんでしょうね?」

「分からないです。顔色が悪そうなのは分かったんですけど……」

 彩香の言う通り、結衣はどうしたのだろう。昨日の夜に何かあったのだろうか?

 ともかく、まずは結衣に会って聞いてみるしか他にない。

「自分の部屋とか?」

「いそうですけど……でも、結衣さんの部屋は結衣さんの腕輪でしか開かないですよ」

「あー……とりあえず、扉越しに声かけてみよう」


 二階の結衣の部屋前。

「結衣さん、大丈夫ですか?」

「結衣さん、いますか……?」

 ……返事がない。

「…………ま、まさか」

 いや、そんなことないよ。多分、寝てるんだよ。頭痛いから、少し昼寝しようって思ったんでしょ。

 ——けれど、そんな考えはすぐに打ち砕かれた。


「——なッ」

 扉が、開いた。


「各自に付けられている腕輪から部屋の扉の開錠ができます。ですが、死亡した人の部屋については誰でも入れるようになります——」


「……結衣、さん?」

 扉が開くと、彩香が何の躊躇もなく部屋の中に入る。


「キャアァァァァァ——ッ!!!」


 その瞬間、今まで聞いたことのない悲鳴が私の耳に飛び込んできた。

 そして、その場に崩れ落ちる彩香。

 

ああ。もう、見なくても分かった。


「何ッ、今の悲鳴……!?」

 と、その悲鳴を聞きつけた藍良、茉希がこちらに走ってくる。

「ちょ、彩香ちゃん!?な、何してるの!?」

「え、あの……ち、ちが……ッ」

 どういう状況か分からず、言葉が上手く出ない。

「な、なんで……さ、彩香……なにしたの?」

「ち、ちが、いま……私、ただ、結衣さんの状況、し、知りたくて……きた、だけなのに……」


「なんで——結衣が、死んでるのよ!?」


 ああ。そう、か。

 結衣は——死んだ。


「彩香!あんたが、殺したんでしょ!?」

「ち、違いま……ッ」

 

 遠くからでも、分かる。結衣が、地面に倒れている姿が。

 その貌は——いろんな感情が混じった、ぐちゃぐちゃな貌だ。

 私たちは医者ではない。ただの学生である。結衣は、一体何によって死んだのかが分からない。


 ただ、心配で見に来ただけなのに。

 扉が勝手に開いて、目の前で人が死んでいた。

 お父さんの時みたいに、死んだ。


「あんれー、みんなどうしたのー?」


 と、数分遅れて夏希がやってきた。

「あれ、なんで結衣ちゃんの部屋開いてるの?」

「な、夏希……っ、結衣が……結衣が、死んだ」

 結衣の死を、藍良が夏希に伝える。

「えっ、ほんと?……あわわ、ホントだ」

「人が死んでるのに、よく落ち着いてられ……。いや、私も落ち着かなきゃ」


 どうして?なんで、結衣が死んでるの?耐えられない現実に、私はその場に立っていられなくなる。

 その場に崩れ落ちた。

「の、乃亜ちゃん、大丈夫!?」

 茉希の声が遠くに聞こえる。視界がグルグルと揺れている。

「この状況、確かにそうなるのはおかしくはないわ……待ってて。物置からシーツ持ってきて、結衣に被せるから」

「し、死ぬなんて……絶対……いやだ」

「乃亜ちゃん大丈夫だよ。あなたは死なせない」

 茉希……さん。

「……彩香、あとで三階のラウンジに来て」

「……う、うぅぅ……」

 そこで視界が途切れた。







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