十四話
もそもそと食事を終わらせた私。
順番で言ったら、彩香とほぼ同じくらいだった。
食堂には、気が付けば私と彩香しか残っていなかった。
「あの……今日はどうしますか?」
「どうって言われても……」
現状は昨日と同じ。
この建物内を歩き回るしか他にない。
「みんなはどこに行ったのかな?」
「藍良さんと結衣さんは、出口が無いか、一階の廊下を調べるって言ってました。夏希さんは茉希さんと倉庫を調べるとかって……」
昨日はみんなバラバラだったけど、今日は二人一組になっているらしい。
「じゃあ、私たちも良かったら一緒に探してみる?」
「あ、はい……」
「出口とか無いのかしらね」
「まぁまぁ、ゆっくり探そうよ」
「…はぁ、一刻も早くここから出たいってのに」
「あ、いた」
廊下に出ると、藍良と夏希がいるのを見つけた。
「何?私たちを探してたの?」
「探してたって言うか……廊下にいるって聞いたので」
「えっと……私、藍良さんに訊きたいことがあるんですけど良いですか?」
「……?」
「茉希さんの事……なんであんなに、反対したんですか?」
「ああ……」
彩香がそう言うと、数秒置いて話し出す。
「最初に言っておくけど、別に嫌いとかじゃないからね。その、どっかで見たことあるんだけど、普通の男子大学生達を看守役と囚人役に分けて心理実験を行ったの。本来は二週間程度の実験だったらしいんだけど、6日で中止になった。看守役は権力を濫用し、囚人役は精神的に追い詰められた……って言う話、知ってる?」
「……聞いたことはあります」
「…………」
私はその話、全然知らなかった。
「だから、全員が茉希をリーダーだと崇めて言いなりになっちゃうのを止めようと思ったのよ」
「そういう事だったんですね。だったら、そう言えばよかったのに……」
「べ、別に……私は、私の意見を言っただけだし」
なんとなく藍良の性格が分かったような気がする。
自分の意見はハッキリというけど、かといって他人の気持ちをないがしろにするわけではない。
ただ、それを表に出さないから……なんというか、損をしているような感じかもしれない。
三階を通って、別の階段を下りて倉庫に行く。
倉庫には夏希と茉希が何かをしていた。
「あの、茉希さん?」
「あ、乃亜ちゃんに彩香ちゃん」
食堂でのやり取りで、落ち込んでいたかと思って気になって来てみたんだけど……。
「あの、さっきの食堂で……」
「ああ。良かれと思って言ってみたんだけど、あんな風に言われてショックなのはあるけど……夏希ちゃんと一緒に探し物をしてたら、もうすっかり忘れたよ」
「へっへー、私と組んで良かったー?」
「うん……っ」
「まぁ、こんな状況、リーダーとか自然とできるもんだと思いますけど……」
「そうですね……映画とかだったら、結構リーダーとか決まりますし」
「とりあえず、何か使えるものが無いか探そう」
そう言って段ボールの中を見ていく茉希。
「……確かに、藍良のいう事、図星のとこもあったかも。自分がリーダーの立場で、皆を引っ張っていければいいなって……そんな風に考えてたけど、それって結構傲慢だなって。終わりが見えない状況で、私も焦ってたんだなぁ」
そう言いながら落ち込む茉希の肩に手を置く彩香。
「そんなことないですよ」
彩香の言うことに、夏希と私が頷く。
「その、茉希さんには感謝してます。人の話を聞いてまとめてくれるし……私の話もちゃんと聞いてくれたし」
私が少し意識を失った日、茉希は私を部屋まで運んでくれた。
それに、私の過去をちゃんと聞いてくれた。
「私も、助かってます」
笑顔でそう言う彩香。
「なら、良かったけど……」
そう答える茉希の笑顔。柔らかい微笑みだった。
「はぁ……」
結局、昨日と同じだった。
夕飯を食べ、お風呂に入り、自室に戻り、ベッドに入る。
何にもない日。
誘拐犯からのアクションは、アナウンスだけ。しかも、食事の時間のみ。
変化といえば、今朝のケンカだったけど、明日はどうなるんだろう?
ケンカはもう見たくない。けれど、変化は欲しい。いつもと同じ日々になってしまえば、精神的におかしくなってしまう。
何より、この奇妙な光景を日常にしたくない。
「……ダメだよ、ネガティブになっちゃ」
自分自身に言い聞かせる。
でも、それは仕方ないとしか言えない。こんな状況なんだもん。
こんな時こそポジティブに、笑っていられたらそっちの方が頭がおかしいとしか思えない。
「…………夏希、さん?」
一瞬、夏希の顔が頭に浮かんだ。
……私は夏希さんのような明るい人間にはなれない。
なぜこんな状況なのに、あの人はいつものんびりしてられるのだろう。
明日、時間があれば聞いてみようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます