十三話

 三日目。


 今日も朝食のアナウンスで起こされる。

 今日で……三日目、かな?

 この生活には慣れない……いや、慣れない方がいいのかもしれない。

 順応した方がいいのかな……生き延びるために。

 そんなことを考えつつ、ベッドから身を起こす。

「……はぁ」

 変わらない光景。はぁ、外の景色が見たい。

 最後に見たのは……夕焼け空だった。

「……懐かしいな」

 三日しか経っていないのに、もうずいぶん前のことに思える。

「食堂、行かないと」

 正直言って、お腹はあまり空いていない。けれど、食堂に行かなければ他の人たちとおしゃべりができない。

 身支度を終えると、自分の部屋を出た。


「んーと、今日はパンがいいなー」

「……これって、ほとんど同じ食事、ですよね?」

 今日の朝ごはんは、バイキング形式だった。……いや、昨日もバイキング形式だったけれど。

 おかずはちょっと変わっているけれど、顔ぶれはほぼ同じだった。

「まぁ、このよく分かんない機械で栄養を摂っているって話だったし……おなじ料理でもいいってことだろうね」

 既にご飯を食べている結衣がそう言う。

「なるほどね。同じ料理の方が、メニューを選ぶ手間が省けるわ」

 ワイワイと話をしながら料理を取って席に着く。

「ちょっと、ここで一ついいかな?」

 と、茉希がパンっと手を叩く。

「今日で三日目、誘拐犯と思わしき人物もアプローチはアナウンスだけ。このままじゃストレスで押しつぶされると思うんだ。そうならないためにも、マキたち団結した方がいいんじゃないかな?」

 団結……一体どういう事だろうか。

 周りを見ると、その言葉にみんながポカーンとしていた。

「例えば、この生活のリーダーとか、係を決めたらいいんじゃないかなって。掃除とか食器洗いは持ち回りで、一日ごとに違う人がやったり。まいにち違うことをすることで、気分転換できるかなって思ったんだけど、どうかな?」

 私たちに問いかける。

 数秒沈黙が続いた後、

「いいねー、私そういうの好きー」

「ま、まぁ……別に、良いですけど」

 それに対し、好意的な反応を示したのは夏希と彩香だった。

「係に関しては良いと思うけど……リーダーを決めるのは、ちょっと慎重になった方がいいのかも?……それに、ルールが無い状態で、ルールを追加するのは、自分たちを縛るだけなんじゃないかなって気もするけど」

 否定的な意見は結衣だった。

 私はどちらかというと、好意的な方だけど……。


「リーダー、ねぇ。なんか、自分がリーダー面したいって感じに聞こえるんだけど、気のせい?」

 藍良は完全に否定側だった。

「そんなことないと思うけど……まとめ役がいたらいいんじゃないかなって思っただけで……」

「そう、じゃあまとめ役は……結衣?」

「えっ、なんで私……?」

「この中で、一番年上でしょ?」

「ま、まぁ……一応、16だけど……」

 まとめ役にはなりたくないらしい。

「それなら、茉希がやればいいんじゃない?」

「えっと……」

 皮肉っぽく言われ、茉希は下唇を噛んだ。

「あの……ここでケンカはやめましょう」

 段々と場の空気が悪くなっているのを感じる。

 止めに入ろうとすると、茉希が苦笑いをして改めて席に座り直した。

「分かった。そういうつもりはなかったんだけど、そう思われるんなら別にいいや。リーダーとかの話は、これでおしまい」

 茉希も場の空気が悪くなっているのを感じたらしい。

「今後も、そう言う話が無いといいわ」

 藍良はそれっきり何も発することなく食事を続けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る