五話
「……はぁ、はぁ……あれ、ここは?」
「あ、目が覚めて良かった。大丈夫?」
「あ、はい……何とか」
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。
私はベッドに横たわっており、まるで看病をしているかのように私を見ていたのは海崎茉希だった。
「茉希さん……もしかして、私を部屋に連れてきたんですか?」
「さすがにちょっと、ね……少し休ませておいた方がいいと思って。あ、ごめんね。乃亜ちゃんの部屋に居座って……」
「あ、いえ。むしろ、ありがとうございます」
とりあえず、部屋に送ってくれたのは茉希だった。
「ええと……これ、飲んで」
茉希がコップを差し出してくる。恐らく食堂にあったものだろう。
「これは?」
「ああ、安心して。ただのお湯だから」
それを受け取ると、ほのかに暖かかった。
ゆっくり体に流し込む。
「落ちついたかな?」
じんわりと体の奥が暖かくなる。
「……はい。ありがとう、ございます」
微かな声でそう言う。今私は、うまく微笑んでいるのだろうか。
さっきまで力んでいた体が、今ではすっかり抜けきっていて、正直みんなに迷惑をかけてしまって申し訳ない気持ちだ。
きっと醜い顔なんだろうな。
——そこまで遠くない記憶。私のお父さんは、死んだ。
交通量は多くは無い交差点で、信号無視してきた車が突っ込んできた。
これ以上ない衝撃と、叫び声が聞こえた。気が付いた時には、私は病院のベッドの上で視線だけ動かせる状態だった。
私は車から放り出され、何とか命は救われたが……つぶれた車の中では大量の血が流れていた。
事故当時の記憶はほとんど飛んでいたのに、リハビリが終わった後の夜、その夢を見てしまった。
暗闇から、私の名を叫ぶ声が聞こえた。
「死にたくない」という言葉と共に。
後悔したところで過去は変えられない。あの日、私はショッピングに行っていなければ——。
それ以来、ドラマや映画で「死にたくない」などの言葉を聞いてしまうと、殺気みたいに取り乱してしまうことがある。
そのせいで、辛い人生を歩んでしまうことになった。
面白半分でそんなことを言われたり、疎遠になった人もいた。
このままじゃマズい、と思い病院にも行ったりした。精神を安定させる薬を貰ったり、色々努力はしたけれど——無駄だった。
「はぁ……これからどうしたらいいんだろう」
茉希が遠い目をしながらそんなことを言う。
「乃亜ちゃん、大丈夫だからね。あなたを死なせたりはしない」
「……はい」
茉希の右手が肩にかかる。
その言葉は、とても頼もしく思えた。
「じゃあ、私はみんながいる食堂に行ってるね。何かあったら話に来て」
「……」
笑顔で手を振って、私の部屋を退出する。
「……脱出する方法を探さないと」
とにかくここにても意味がないので、とりあえず体調は回復したし、みんながいる食堂に行く事にした。
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