四話

「ほんっとにここは何なのかしらね。何の理由で私たちをここに連れてて来たんだか……」

 食事が終わり食器を片付けていると、藍良がため息交じりにそう言う。

「これはもう、誘拐としか思えないです……」

 席に座っていた彩香が、身を震わせながらそう言う。

「誘拐……身代金とかが目的かな?」

 夏希の言うことに納得しそうになったが、ちょっと違和感を感じた。

 お金目的だったら、なぜ複数人を誘拐したのだろう?普通は一人の方が都合がいいし、複数人の場合リスクが伴うと考える。

「……身代金目的なら、複数人を同時に誘拐するのはリスクが高い気がするんですよ」

 私は思ったことを三人に言ってみた。

「確かに、そうか。ドラマとかでも見ないね」

 私が言ったことに、夏希はうなずいてくる。

「そういえばみなさん、過去の記憶ってあります?ここにくるまでの記憶、というか」

 彩香が震える声で皆に問う。

 お皿を拭いたり棚に戻していた三人が動作をやめて、自分の記憶について語ったが、結果としてはみんな同じだった。

 昨日の夕方くらいまでしか記憶がない。

 学校から帰っていた途中、放課後図書室に行った帰り……気が付いた時には、ここの見知らぬベッドで寝ていた。そして、腕には奇妙な機械が取り付けられていた。

「おんなじくらいの歳の子を集めて……何しようとしてるんだろ」

 結衣がそう言う。

 犯人は何者で、目的は何なのか。

 犯人は姿を現さないし、特に何かを要求されているわけではない。

 共通した部分で言えば、同じくらいの歳。

「そうだねー、考えられるとしたらハーレム?」

「うわぁ……」

「何かの実験とかじゃない?」

「いや、うーん……」

 それぞれの見解を述べるが、イマイチ納得するものが無い。


「——ここから、ここでの生活についてお伝えします」


 またしても奇妙な電子音の後に、女性のアナウンスが聞こえてきた。

 アナウンスが聞こえると、全員が急に静まり返る。

 聞き逃してはいけない、といった感じ。

「食事について。朝の8時、昼の12時、夜の7時に食堂のエレベーターにて配送されます。食事は各自取り出して行ってください。食後は容器をエレベーターに戻してください。朝の10時、午後2時、夜9時までに戻してください。お風呂についてです。午後2時から11時までで、タオルなどは備え付けの物を使用し、各自洗濯をして再度使ってください。消灯は日付が変わった時間です」

 まるで原稿を読んでいるかのようなアナウンス。

「……やっぱり、ここから出してくれる気は無いんだ」

 私はそう呟き肩を落とす。


「特殊ルールについて」

 

「…………?」

 特殊、ルール?みんなの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。


「この建物から出られるのは——一人だけ。殺し合い、自殺等々……やり方は自由です。最終的に一人になったことを確認した後、出口を解放します。自殺についてですが、腕についているチューブを切ることですぐに死ねます。元々は料理だけで補えない栄養を補給する点滴のような役割ですが、それが破損した場合、腰についている装置から毒薬が体中にいきわたる仕組みです」


「何を言ってるの……どうせ、嘘よ」

「し、死ぬのは……ヤだ」

「あたしも、死にたくない、です……」


 死ぬ?私たちが?最後の一人にならないと出られない?

 どうして死なないといけないの?


「ふざけるのもいい加減にして!人を殺すなんか、できるわけないじゃない!」


 人殺し……どうして、そんなことをしないといけないの?殺したのは、私じゃない。


 突然、心臓が押さえつけられるようにして息が苦しくなる。

 深呼吸をしたいけど、何かが邪魔で上手く息ができない。

 冷静にならないと。そうは思うけど、できない。


「誰も殺させやしない!絶対、全員で脱出するんだから!」


 夏希がそう叫んでいる。

 いや、その前に。静かにしてほしい。

 両手で耳をふさぐ。


「ほんとに何が目的なんすか……?」


 静かにして……何とか我慢しなきゃ。それなのに、もう限界。

 抑えきれなくなって、さらに息が荒くなってくるのが分かる。

 殺す、殺される、もう意味が分かんない。


「ちょっと静かにして——!」

 机を叩き、そう叫んだ。

 抑えようとしていた力が急に抜けて倒れそうになる。

「え、乃亜……さん?」

 パイプ椅子から転げ落ちてしまう。地面にうずくまり、大きく息を吸っては吐く。

「お、落ち着く……抑えないと。……ごめんなさい、わたし、息が、できなくて……」

「乃亜ちゃん……?」

 茉希が心配そうにこちらを見てくるのが分かる。

「怖がるのは分かるけど……これは、ちょっとトラウマがありそうな……」

 結衣がこちらに駆け寄ってくる。

 

「続けて、扉の開錠のシステムについて。各自に付けられている腕輪から部屋の扉の開錠ができます。ですが、死亡した人の部屋については誰でも入れるようになります。混乱しているのは承知の上ですが、皆様の対応次第で、生活環境の改善には対応していこうと思っています。——魔法も、使えるようになるかも、しれませんね」

「は……?魔法って……どういう意味?」

 それっきりアナウンスは何も流れてこなくなった。


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