三話

 一階に降りて廊下を進むと、大きな食堂に出た。

 やはりというか、ここにも窓はない。

 カウンターの向こうでは、先に来てたポニーテール少女が大鍋の中を見て嬉しそうにしている。

 私もお腹は空いているが……こんなよくわからない状況で、そこまで嬉しそうにしていることに感心してしまう。

「鍋にはシチューが入ってたよー、美味しそー」

「いや何言ってんの……変なのが入ってたらどうするの?それに、これだって何か分からないのに」

 藍良は自分の右腕に繋がっている管を見ながら言う。


「——この後、生活についての説明をします。食後もすぐに席を立ち上がらないようにしてください」


 またしても、奇妙なアナウンスが響く。

「ちょ、あんた何が目的なの!?私たちをこんな場所に連れて来て、何しようって言うの!」

 アナウンスに、藍良が大きな声がそう問う。


「…………」


 しかし、アナウンスの声はしない。

 ザーっというノイズが聞こえるだけだった。

 生活のルール?どうやらこの場所から逃がす気はないようだ……。

 こんな場所に連れてきた人は、一体何がしたいのだろう。

「……多分、こっちの声は聞こえないですよ」

 藍良を落ち着かせるように、彩香が椅子に座るよう促す。

「……はぁ」

 言われた通り椅子に座り、小さく息を吐いた。

「と、とりあえず……ご飯、食べましょうか」

 そう私が言うと、藍良は仕方ないというように頷いた。

「おっけー」

 それを聞いたポニーテールの少女は、全員分の食事を皿に分けてくれた。

 こんなおいしそうなものに、何か危ない薬とか入っているとは思えない。

 白いシチューには、ニンジン、ジャガイモなど、私の家でも出てくるような食材が入っていた。

「……ん、美味しい」

 味は普通に美味しかった。


「これっておかわり無い?」

「……無いんですよ。だから、もう少しゆっくり食べた方がいいです」

「うぇー、残念っす。ご飯入れて食べようと思ってたんすけどね……」

「えっ……ご飯、入れるの?」

「うん。え、何その信じられない目みたいなのは……」

「あぁ、これは論争が始まる話題ですねえ……マキは、ノーコメントで」

 食事中は、そんな平和な会話が続いていた。

 こんな状況でも、何とか明るくしようっていう思いがあるからかもしれない。

「そう言えば、自己紹介……まだでしょ?お互い、名前が分からないと不便だし」

 銀っぽい髪の色の子がそう提案すると、みんなの動きが止まった。

 どうしようか、という迷いで止まっているんだと思う。

 どう出るべきか、お互いの様子を伺っているようだった。

「私は、遠藤夏希えんどうなつき

 ポニーテールの少女がそう言う。

 自然とみんなの視線がそちらに向いた。

「名前だけでいいー?じゃあ、隣の銀髪の子ねー」

「え、あ、はい」

 銀髪の子が恥ずかしそうに席を立つ。

「私は、高橋結衣たかはしゆい……です。高校一年です」

 小柄で同い年くらいだと思っていたけど、年上という事にビックリする。

「次はあたし……壮馬彩香そうまさやか、です。趣味は、絵を描くこと……です。じゃあ、次お願いします……」

海崎茉希かいざきまき。中学三年生で、バレーが趣味だよ」

 他の人とは違い、ハッキリと喋れる印象だった。

 しかも、一人一人目を合わせようとしている。

 そして、自分の番が来た。

「ええと……斎藤乃亜さいとうのあです。中学一年生です」

 少し緊張はしたけれど、ハッキリと喋れたと思う。

「最後は私ね。……曽根藍良そねあいら。気軽に話しかけてちょうだい。趣味は散歩……かな」

 これで全員分の自己紹介が終わった。





 

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