【第一話 上】爆誕ッ! 魔法少女ポイポイ
怪獣による振動は無くなった。
しかし、それは安堵ではなく、さらなる被害が出ていることの証でしかない。
より遠くへ、より広く、より多く。怪獣を止めない限り被害は大きくなるばかりだ。
そんな中、俺のいる地下ではまだ茶番が繰り広げられている。
ギャルは折れたステッキを必死に糊でくっつけようとしている。学生バッグに入っていた、なけなしの糊。しかしステッキはプラスチックに似た素材のようで、くっつく兆しは微塵もない。削られていく糊は、彼女の希望の比喩のようにも見える。
この場にセロハンテープを持っているものもいないようだ。布で巻いて固定する方法もダメだったらしい。アーメン。
自称予言者は予言書(仮)を捲って、打開策を探しているようだ。
正直、どちらも宛にならない。
「こ、これはどうじゃ!」
これはどうじゃ、って何なんだ。予言は感なのか?
予言者に視線が集まる。この場に置いて彼に注目するのは、決して頼りにしている訳では無い。ちょっとしたイベントとして「まぁ聞いとくか」くらいのもので、およそ半数はその発言で気分を紛らわせようとしているのだ。
「『ステッキを手に入れし者、タバコを吸うと魔法少女になれる』」
少女とタバコを共存させるな。
「……私、吸う」
「よし、吸え! 誰か、タバコを持ってないか!」
そして急展開。
隣にいるギャルの友人もどうすればいいのか分からず困惑している。
場が静まり返る。最低でも十数人は持っていそうな位には人がいる。しかし誰も何も言わないのは、変な事に巻き込まれるかもしれない不信感があるからだ。俺もその内の一人だが、ギャルにステッキを押し付けたという罪悪感の元、少し行動を起こすことにした。
「俺、持ってます」
「おぉ! ありがたい。さ、少女よ」
「うん」
俺はギャルにタバコとライターを渡した。ギャルは「これ持ってて」と、ステッキを俺に渡した。未成年喫煙。周りの視線は決して温かなものではなかった。中には子連れの方もいる。子供への悪影響を考えると、気持ちのいいものでは無い。
するとギャルは壁際に移動し、口を開く。
「タバコが大丈夫じゃない人は少し離れてて。大丈夫な人は彼らにスペースを空けてあげて……ごめんなさい、ありがとう」
その足は震えている。こんな大勢の前で、阿呆みたいな事をするんだ。それでも、やれることはやるべきだと。何故そんなに頑張るのか、よく分からない。
彼女はなれない手つきでライターのホイールを回す。
「中々、つかない」
「貸してごらん」
俺は直ぐにタバコに火をつけた。
「ありがとう」
彼女は口にタバコを咥え、煙を吸う。瞬間、噎せ返り煙を吐く……それだけで、特に何も起こらない。
「ごめん、もう一回だけ」
勢いよく吸う。その煙は、毒は、肺まで届いて……噎せた瞬間、吐き出た煙が彼女の身体を包み込む。明らかに彼女が吸った量より多く、やがて姿が見えなくなる。その場にいた全員が目を見張った。
それから十数秒して、煙が晴れ始める。
──そこには魔法少女というより、黒魔道士という言葉が似合うような彼女の姿があった。
魔法少女は毒を吐く マネキ・猫二郎 @ave_gokigenyo
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