魔法少女は毒を吐く

マネキ・猫二郎

【プロローグ】始まりの怪獣騒動

 ある日突然。日本各地に次々と怪獣が現れるようになって。

 対抗手段は魔法少女。正体はキャピキャピ現役ギャルで。

 そのギャルを魔法少女へ導いたのは、ちっこいマスコットキャラ的存在でなく普通のアラサーサラリーマンで。

 そんなカオスな事の発端が転生したノストラダムスだとしたら…………

 あーもう意味わからん。紛うことなきリアルなんです。これ。

 

 ※ ※ ※

 

 2029年6月6日。正体不明、発生源不明の怪獣騒動が日本中を震撼させた。全世界がフィクションを疑ったその騒動は決してフィクションなどでなく、海外メディア含め、テレビ、ラジオなどの媒体からは仕切りなく「怪獣」「魔法少女」「予言者」という三つの用語が連発されており、そのどれもが「正体不明」である事を前提として、偉い学者先生云々が正体を突き止めようと動いていること、また分かったことを供述している姿には、現実なんだと思い知らされる………………までもなく。


 怪獣騒動から二日後の同年6月8日現在。アパートの一室。目の前に広がる光景は実に素っ頓狂かつキテレツで混沌カオスを極めるものだった。なぜなら今、世間の的となっている「魔法少女」&「予言者」が俺と同じ円卓を囲んで同じお茶を嗜んでいるのだから。


 わざわざ学者に現実味の裏付けをしてもらうまでもなく、そもそもの話、この「魔法少女」だって元は普通の女子高生な訳で、そんな彼女を導いたのは、導いてしまったのは、紛れもなく変哲もない極々普通のアラサーサラリーマンの俺なんだから。


 と、ここで時間を怪獣騒動真っ只中に戻そうではないか。

 

 ※ ※ ※

 

 この世界に明日はあるのだろうか────

 夕焼けに照らされる建造物らとソレの影が世紀末的雰囲気を醸し出す都会の街。


 気が動転して怪獣の進行方向へと逃げる仕方の無い人と、何とか冷静に思考を巡らせ進行方向の垂直方向へ逃げる優秀な人の二つに分かれ、ジタバタはたまたドタバタと怪獣から逃げ惑う群衆のうちの一人である俺は、「とにかく怪獣から離れないと」と浅はかな思考で前者の逃げ方をしていた。


 怪獣は歩くだけで、飛行やビームなどの能力がないのが救いだ。


 十分? 十五分? 走り続けていた俺はあることに気づく。怪獣との距離が明らかに開いている。それどころが怪獣は活動を停止しているようにも見えた。群衆も少しずつその異変に気がついたようで、休みなく走らせていた足の動きを少しずつ遅くして、怪獣の方を振り向きざまに見ながら、歩くもの、座るものの二つに分かれ、フラフラはたまたクラクラと疲れきった群衆のうちの一人である俺は、「しばらくは大丈夫か?」と堕落した思考で後者の休み方をしていた。


 だがソレは案外間違いではなく、怪獣はしばらく動かなかった。


 その間の話。政府は地下への避難を呼びかけ、自衛隊その他精鋭部隊を派遣し、逃げ遅れた生存者の散策、避難民への食料・水の供給と共に、一部部隊はマシンガンや小型ミサイルで怪獣への集中砲火を行っていた。


 賛否両論なその行動は「まだ生きているかもしれない」という意見の元行われたのだが、もう一方の意見として「下手に刺激しない方がいい」というものがあった。


 が、正直我々一般市民がどうこう言える話ではない。

 はて。俺はどうなる事やら…………。


 ※ ※ ※


 「みなのもの! よく聞きたまえ。この中に魔法少女は居ないかね?」


 え?


 その独特な口調の主は五十歳ほどのおじいさんだった。地下内は一瞬の沈黙の後、嘲笑と避難の目で埋め尽くされた。


 もちろん誰も返事せず。肩を揺らして笑う者。狭い空間の中、なるべく端へと移動する者。俺はどちらでもなく、ただ彼の話を最後まで聞くことにした。


 「…………確かにワシは予言した。今日この場所で魔法少女が現れると」


 コソコソとスマホのカメラを回すものもではじめた。


 「みなのもの。持ち物を確認してみてくれないかね。こう、先っぽに星がついていて……その横に羽が生えてるやつ。ソレを持っているものが魔法少女に選ばれし者じゃ」


 いやいやいやと思いつつも、案外確認している人は少なくなかった。俺もその一人で、「いやいやいや」と思いながらも、会社の鞄のファスナーをビーッと開けて、カパッと開けたら…………あら不思議。


 「あ」


 よし、ならやることは一つ。


 俺は丁度隣に座っているギャルっぽい女子高生が、知り合いと「あった?」「ある訳ないじゃん」と話をして他所よそを向いている隙に、空きっぱなしの彼女の鞄に清閑かつ迅速にステッキを入れた。

 もはやプロの所業だ。


 「え、ちょ、ついでに鞄何入ってるか見せてよ」

 「やだよ、何も入ってねーし」

 「じゃあ尚更よくない?」

 「まあいいけど、マジで何も入ってないよ」


 気の抜けた会話。

 こんな状況だというのに、図太い神経をしているのか。こんな状況だからこそ、おどけているのか。


 カバンを手繰り寄せ、正座している太ももの上に置くと、これまた彼女もカパッと開けたら…………あら不思議(狙い通り)


 「「あ」」


 なにやら二人は小声で話し始めた。


 「ねぇアイカ、状況的にドンピシャなのは……たまたま趣味と合致しただけだよね?」

 「え、いや、たまたまって言うか、そもそも趣味じゃねーし。いれねーよ」

 「…………っ! じゃあやっぱ、アイカが選ばれし魔法少女ってこと?」

 「はぁ!? いや、てかさっきまでは入ってなかったし!」


 と、自称予言者がその会話に気づく。


 「おぉお! お主が魔法少女なのか!」

 「ちげぇし!」 

 「そのステッキは間違いな…」

 「ち・げ・え!」

 「…………違うのか」

  折れるなよ。

 「うーん、どうしたものか」


 途端、地下が大きく揺れる。

 その場にいた人々は悟る。怪獣が動き出した。

 自衛隊が攻撃していたはずなのだが。恐らく怪獣の強さが超常的なのだろう。


 国から、SNSに随時発信される情報を確認して、その場にいる人々は口々にネガティブな言葉を吐き出す。それは毒ガスのようにその場を包み、さらなるネガティブを生み出す。


 「やっぱりダメだったんだ」

 「ミサイルでダメならもう…」

 「おうちにかえりたい」


 子供の泣き声、止まず轟く怪獣の足音、募るイライラ、不安。


 隣のギャルは不安気な顔で、本物か偽物かも分からんような、偽物っぽいステッキを見つめている。彼女の友人は背中を摩って「きっと大丈夫」と元気づけていた。


 多少の罪悪感に苛まれたものの、素知らぬ顔で変わらぬ様子で、俺はそこに居続けた。割と最低なのは重々承知だが、この状況は言い訳にならないだろうか。


 一方、偽物か本物か分からん様な、偽物っぽい予言者は、星座をして神に祈りを捧げるようなポーズで「イワコデジマ」と唱えている。ほん怖が好きなのだろう、が「マジデコワイ」を逆読みしただけのそれに効力はあるのだろうか。というか、用途違う気がする。


 「……私、やってみる」


 隣のギャルが言う。周りの視線が彼女に集中する。


 「ねぇ予言者、どうすりゃこれで戦えるのか教えてよ」

 「イワコデジマイワコデジ…マジで?」

 「マジだから早く教えて!」

 「よし分かった。なら今から言うことをなぞってやってくれ」


 すると予言者は、いかにもな古びた本を出しソレを読み始める。


 「えーと、『ステッキを握ったまま、両手をグーにして手首を擦り合わせます』」


 ギャルが不思議そうに従う。


 「『すると良い匂いがするので、そのままのポーズで匂うと変身できます』」

 「ホントだ、いい匂いするかも」


 お気づきの方もいるかもしれないし、ギャルを除いたその場の誰もが茶番でも見ているような気分になったのは言うまでもない。

 ギャルは気づいていない。ぶりっ子ポーズをさせる典型的な罠に。

 つかいい匂いすんのかよ。


 「でも変身しない…」


 しかし変身しない!

 予言者はその場の空気感に苦笑いしかできない。


 「ねぇ、どういうこと!」


 ギャルがステッキの先を向け、予言者を勢いよく指す。瞬間、ステッキの持ち手がパキャっと折れた。


 「「「あ」」」


 ※こんな茶番中も、刻一刻と街は破壊されています。

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