第6話 おっさんマイスター

 所変わって廃墟同然ではあるが人々の暮らす街の中にて。多少マシな廃墟で営業中の金属こすれあう音とツンとした油の匂い香る広々とした工房内。


 鉄錆のゴーレムを引き連れたミーナは、帰ってきて早々に。ゴーグル付きのフェイスガードを被ったメカニックと価格交渉していた。


「はぁ? 足元見てんじゃねぇぞ。工具と工房の端を借りるくらいなら、音声の魔道具一つでお釣りが来るだろ!」

「全くわかっとらんな嬢ちゃん! 他人に商売道具を触らせるんだぞ! もしもの為の保険じゃ保険! 光学式の読み取り魔道具も貰わんとな!」


 どうやら交渉は見た目のせいで不利みたいだが、なんとか食らいついている模様。


「強突く張りが! 材料は当然自由に使うからな!」

「ほっほっほ! ケーブルは嬢ちゃんの両手を広げた長さまで、魔術触媒は下級の物のみ、じゃ。それ以上は別料金」


 頭突きしそうなほど顔を近づけて威圧するミーナだが、少女がやっても可愛らしいだけでメカニックに対して大した威圧にはなっていない。


「かー! ドケチ! あっ耐汚染の帽子を普通に買うぜ」

「ケチで結構じゃ! 毎度あり。その耳に合いそうな奴を探してくるぞい」

『楽しそうだねぇ。ちゃんと覚えていてくれてありがと』


 交渉を済ました後、お互いにスンと普通の態度になった二人は特に交渉も無く、奥から引っ張り出された耳の形に膨らみのあるメタリックな帽子と紙幣を交換した。


「高濃度汚染地帯には対応しておらんから、無茶は禁物じゃ。一応は防弾性能もあるぞい。こちらも拳銃程度にしか対応しておらんが、無いよりはマシじゃろ」

「悪くない。ありがとよ」

『スゴそうな帽子!』

「場所はあっちの空いてる所を使うと良いぞい。大体の工具は揃っておる」


 渡された帽子を被ったミーナは、説明を受けながら姿見鏡の前で回ると、手を振って工房内の指定されたスペースへ鉄錆のゴーレムを伴って移動した。


「こっちに来てくれ」

「大丈夫なのか?」

「おうよ! 任せておきたまえ。まずは真っ二つのお嬢さんから直そうか」


 ――ミーナの金目が弧を描く!


   ――z__

 【魔術A】【整備A】【魔導A】

  ――z__


 鉄錆ゴーレムの心配を余所に、帽子を被ったミーナは芝居がかった動作で工具をとると、女性型ゴーレムの首後ろにあるメンテナンスハッチを手慣れた様子で開いた。


「ご開帳! あー。完全に機械式ね。変に複雑じゃなくて助かるぜ」


 調整用端末片手に通信ケーブルのジャックを開かれたハッチ内の穴の一つに突き刺した彼女は、端末付属の小型キーボードを引っ張り出して何やら入力していった。


 一瞬赤く輝いた女性型ゴーレムの上半身は再起動を果たし――第一声を上げる。


「なんじゃこりゃあ! 私の美しすぎる下半身が無くなってるんですけど!」

『それはそうなの。ビックリするよね』


「おっ、元気そうだな! キレーに斬られてたから、ほぼ無事だったっぽいぜ」


「凄いな」


 女性型ゴーレムの両手で頬をはさみながらの第一声に対してそれぞれに反応するミーナ一行。


「ちょっと見知らぬ皆さん+同僚さん!? 私みたいな美少女が大変な目に遭っているんですよ! もっと騒いで! 心配して!」


「おっ、そうだな。先にお嬢さんの下半身をつないでおくか。ケーブルを取り替えーの端子を差し替えーの……どうだ?」


 素早く新たなケーブルの末端処理をしてみせたミーナが、騒ぐ女性型ゴーレムのちぎれたケーブルと入れ替えると下半身もジタバタと動き出した。


「私の美しい下半身ちゃん! そんなところに居たんですね!」

『離れた下半身が動いてるの』


「ふはは! 離れた上半身と下半身が別々に動いてるのも愉快だな! お前の名前は……Aパーツ+Bパーツで……ABに決定だ!」


「何ですかその名付け方は!? しかも勝手に名称登録されてるし!」


 ケーブルだけで上半身と下半身の繋がれた女性型ゴーレム改めABは、勝手に変な由来の名前を付けられたことに抗議しつつ、それが正式に登録されているので頭を抱えた。


「次はワゴンセールを直してやるからな。錆取りから始めるぞ」

「お手柔らかに、頼む」


「同僚さんはもっと凄い名前を付けられてる!? というか早く、早くくっつけて! ハァリィはよ!」

『あっ、ゴーレムさん的にも凄い名前なのね』


「ちと手間がかかりそうだし、繋げるのは後でな!」

「すまないなAB」


 騒ぐABを放置したミーナは、錆取り研磨機を片手にワゴンセールの整備に取りかかる。表面装甲が全体的に錆び付いているので、まずは物理的に削ってみるつもりらしい。ミーナの持つ研磨機が唸りを上げる。


「ケチンボに足元を見られねぇように、手早く済ませるぜ!」

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