第4話 おっさんウィザード(2)

 魔法陣の青い輝きがゆっくり消えていくと、錆鉄のゴーレムは力なく項垂れ、その振りかぶっていた腕を力無く降ろした。

 重量のある腕の動きに巻き込まれた戸棚が破砕され、それに危うく巻き込まれそうになったミーナはゴーレムを盾にして難を逃れた。


「うぉっと、危ない、危ない!」

『ひょええ!? 怖いよ!』


 腕にはガトリング砲が付いているので、弾丸の重量もあり非常に重いのだ。


「ユーザー、認証を、確認。……アナタは、当機の、ユーザー、ですか? 当機は、故障、しているため、危険です。すぐに、当機から、離れて、当機を、購入した、店舗へ、連絡して、ください。当機は、様々な機能が、破損しているタメ、店舗へ、自己連絡が、出来ない、模様でス」

『きゃああ!喋ったー!?』


「おっ、そうだぞ! 俺様はミーナ。もっと軽い話し方で頼むぜ。あー、名前がないと呼びづらいな。ハハ、ワゴンセールで良いか。後で修理屋まで連れて行ってやるから、近くに居る暴漢を制圧して欲しいんだ! 連中は銃を持っていやがる! 頼むぜワゴンセール!」

『暴漢? 貴方が一番の乱暴者だよっ!』


 自分よりも頭二つ分近く巨大な鉄錆のゴーレムからの要請を軽く受け流したミーナは、軽く周囲を見回して転がっていたタグに書かれた『在庫セール』との文字から雑に名付けると、逆にお願いをした。


「固体名称の設定と、緊急要請を、承知しましタ。……街中で銃? 緊急度が高そう、だな。ワゴンセールは、ミーナの要請により、暴徒鎮圧を、開始スる」

『ゴーレムさんっ!? 気が付いて! 変な名前を付けられてるよ!』


 ミーナからのお願いで言葉遣いを軽く変えた鉄錆の戦闘ゴーレム改めワゴンセールは、その巨体からは想像できない軽やかさでコンビニから飛び出していった。


 外から断続的な乾いた銃声が聞こえてくる。


 一時も置かずに戦闘音は止み、ワゴンセールはうめく二人の男達を引きずって帰ってきた。


「制圧してきた。街中で、実銃を、撃つとは、危険な、テロリストだ」

『さっきまでのゴーレムさんも、いっぱい撃ってたんだよ……? でも……街中……?』


「おっ、連れてきてくれて手間が省けたぜ。武装解除しないとな。かーいじょ、解除、武装を解除っと……。っけ、シケてやがるぜ」

『わっ! わわ! そんなところも!?』


 うめく男達を蹴り転がしたミーナは懐や上着のポケット、更には靴底をひっくり返して紙幣や硬貨と銃弾入りの予備弾倉、その他諸々を徴収する。その手際を見ている『ミーナご本人』は感心したような声を上げた。


「銃は貰っておくぜ。整備不良っぽいが、分解清掃すればマシになるだろ」

『わぁ! 銃だ!』


「しけったタバコに頭がハッピーになるお薬、大したモンは持ってないみたいだな」

『変な薬もタバコもダメ絶対!』


「ハイハイっと」

『体に悪いんだからね!』


 彼女たちは男達の持ち物を引っ張り出しては品評し、貰ったり放り投げたりしている。コレも武装解除の一環である。

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