第3話 おっさんウィザード(1)

『せっ戦闘用ゴーレムぅ!?』


 脳内で響いた『ミーナご本人』の叫びに、狐耳を抑えたミーナ。

 しかし、脳内で響いた声なので耳を抑えても意味は無く、彼女はインストールされてから初のダメージを受けた。


 彼女は『ミーナご本人』からのフレンドリーファイアにひきつった笑みを浮かべながら、懐から一本のナイフを取り出して握り、物陰から飛び出した。

 味方の叫びに殺られる前に勝つ。短期決戦狙いである。


 対する戦闘ゴーレムは、唯一の出入り口である崩落部に陣取っていた。

 外部の光に照らされた金属の身体には赤錆が浮いており、百年の間コンビニを守っていた歴戦と悲哀を感じさせる。両腕に備えられたガトリング砲は、彼の嘆きを代弁するかのように、回転して叫び声を上げた。


 ――どいつもこいつも暴徒ばかり!

 ――こいつでどいつも黙らせてやる!


 鎮圧すべき暴徒ミーナを再発見したゴーレムは、頭部の単眼を赤く輝かせた。両腕を持ち上げて、猛然と回転するガトリング砲をターゲットに向ける。


 向けられた物騒な代物ガトリング砲に、さすがのミーナも短期決戦は諦めて、物陰から物陰へ移動することで、店の奥へ退避した。


 彼女は解放された弾丸の激流を総金属製のレジカウンターに飛び込むことでやり過ごす。

 重厚なレジカウンターは頑丈な作りとなっており、弾丸の嵐をしっかりと受け止めてくれている。


『死ぬぅ! 死んじゃう!』

「……まぁまぁまぁ、俺様に任せておきな」


 外は弾丸の嵐、中は音響兵器ミーナご本人と追い詰められた狐娘ミーナ

 彼女は音響兵器の機嫌を取るために、口を回す。


「大丈夫、大丈夫! 民間向けにデチューン……弱くされた戦闘ゴーレムだし、実弾は積んでいないぜ」

『アレで弱くされているの……? 本当に死なない?』

「ああ、本来は頭部に小型ミサイル発射筒があるはずなんだが……使ってこないし、ガトリングに装填されているのも鎮圧用のゴム弾みたいだ。傑作戦闘ゴーレムが見る影もないぜ。……ゴム弾に当たると死ぬほど痛いけどな!」

『痛いのは嫌ぁ……』


 これは叫ばせない為の嘘だ。

 鎮圧用のゴム弾と言っても、ガトリングで撃ち出されることは想定されていない。

 超連続で撃ち出される弾丸の激流を生身で受けてしまえば、五体満足での生存は絶望的である。


 あまりに『ミーナご本人』が良い反応をするので、復讐の解説をするミーナ。

 手の中でナイフをもてあそんだ彼女は、しっかりと順手に握りしめて覚悟を決めると、カウンターを飛び出して突撃を開始した。


 ――ミーナの金色の目が弧を描く!


 彼女の魔導核に刻まれた複数の模倣術式が並列起動する。


   ――z__

 【回避A】【魔術A】【魔導A】

  ――z__ 


「よっはっ! あらよっと!」

『ひゃー!わー!』


 ミーナは店内の棚を上手く使って跳んだり、跳ねたり、回り込んだりしながら、ゴーレムに接近していく。

 爆音と共にミーナを追いかけて連射されるゴム弾は、すばしっこい彼女を捉えること叶わず床や棚に炸裂した。


 床には弾丸によるタトゥーが刻まれて、棚はバラバラに解体されていく。


「魔の、術を、ここに!」

『まっ魔法なのっ!?』


 あと一歩という所まで到達したミーナは引き絞るようにナイフを構えると、その手を術式の光で赤く輝かせながら鋭く踏み込んだ。


「――貫き通せ! 【貫通ブレイク】!」

『まさか……』


 彼女の手から葉脈のようにナイフを伝った赤い光は、刃の先端に収束された。


 周囲に高音が鳴り響く。


 近づくなと言わんばかりに振り回されるゴーレムの腕。

 たかがナイフに対する反応としては大げさに見えるが、ミーナの発動した【貫通ブレイク】という術式は、物質の結合を緩めてしまう大変危険なものであり、装甲化されたゴーレムの天敵なのだ。


 彼女は振り回される腕を軽々とすり抜けて、敵の頑丈そうな胸部へ赤く強く輝く一刺しを繰り出した。


 繰り出されたナイフは軽々と装甲を突き破り、柄まで埋まってしまった。

 それでも鉄錆のゴーレムは腕を振り上げてミーナを潰そうとするが……。


「さあ、仕上げだ! ――魔導の核よ! 【書換リライト】!」

『あなたは魔法使いだったの!?』


 ナイフで深々と刺された胸部を中心に青色の魔法陣が展開される!


――あとがき――

短いですが今回はここまでです。

続きもゆっくり描いていきますので、もしよければフォローや星でのご評価をよろしくお願いします。

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