第22話 次元を越えた真実
輝きを増したQ-アルマに身を包んだまま、俺たちは奇妙な次元空間の中に浮かんでいた。周囲には無数の光の糸が織りなす宇宙が広がり、遠くには地球が見える。しかし、それは俺たちが知る地球とは少し違っていた。
「これは……並行世界?」
シャーロットが呟いた。
彩姫が分析的な目で周囲を見回しながら答える。
「そうかもしれないわね。でも、単なる並行世界じゃない気がする」
その時、俺の中で【クォンタム・シンクロ】が再び反応した。まるで何かに導かれるように、意識が拡張していく。
「みんな、俺……何かを感じる」
俺の言葉に、全員の注目が集まる。
「何を感じるの、ユウヤ?」
クロエが興味深そうに尋ねる。
言葉で説明するのは難しかったが、できる限り伝えようとした。
「この空間……いや、これらの空間全体が、何かのメッセージを伝えようとしている気がする」
突然、俺たちの周りの空間が変容し始めた。まるで万華鏡のように、様々な景色が次々と現れては消えていく。そして、その中に見覚えのある光景が映し出された。
「あれは……QH学園?」
楓が驚きの声を上げる。
確かに、そこには俺たちがよく知る学園の姿があった。しかし、それは俺たちの知る学園とは少し違っていた。建物の一部が違う形をしていたり、見たことのない設備があったりと、微妙な違いが目立つ。
「並行世界のQH学園のようね。でも、行われたことはこの世界に近いはずよ」
彩姫が冷静に分析する。
「恐らく、この螺旋状の建造物は、様々な次元や時間軸を観測……いえ、もしかしたら操作することができるのかもしれない」
その言葉に、全員が息を飲んだ。次元や時間を操作する。それはあまりにも強大な力だ。俺たちの手に余る。
ベティーナが厳しい表情で言う。
「そんな力が、誤った使い方をされたらと考えるとぞっとするな」
その時、空間に新たな映像が浮かび上がった。そこには、俺たちの知らない顔をした研究者たちの姿があった。彼らは熱心に何かの実験に取り組んでいる。
「これは……この施設で行われていた実験の記録?」
シャーロットが推測する。
映像は続き、研究者たちがQ-アルマを使って次元の壁を操作しようとしている様子が映し出された。しかし、その実験は明らかに制御を失いつつあった。
「危険すぎる……」
楓が顔をしかめる。
「こんな実験、すぐにでも中止すべきだったはず」
その時、映像の中に見覚えのある人物が現れた。
「龍堂先生!」
俺は思わず声を上げた。
今よりも若いの龍堂先生の姿があった。彼は激しく何かを主張しているようだ。唇の動きを読み取ろうとすると、不思議なことに音声が聞こえてきた。
「この実験は即刻中止すべきです! 次元の壁を操作するなんて、人類の手に余る行為です。予測不可能なリスクが……」
しかし、他の研究者たちは龍堂先生の意見を聞き入れる様子はない。彼らは実験の続行を主張し、ついには龍堂先生を実験から外すという決定を下した。
「そういうことだったのね」
彩姫が静かに言う。
「龍堂先生は最初からこの実験に反対していた。でも、誰も聞く耳を持たなかった」
映像はさらに進み、実験が暴走を始める様子が映し出された。制御不能となった次元の力が、研究施設を飲み込んでいく。そして、その混乱の中で龍堂先生が必死にQ-アルマを回収しようとしている姿が見えた。
「先生は……証拠隠滅じゃなくて、危険な技術の拡散を防ごうとしていたんだ」
俺は胸が締め付けられる思いでそう呟いた。
クロエが悲しそうな顔で付け加える。
「でも、その行動が誤解を招いてしまったのね」
映像はさらに進み、事故後の様子が映し出された。崩壊した研究施設、そして北海道全域に広がる次元断層の影響。そして、その混乱に乗じてデータを持ち去るシャドウ・ネクサスの姿。
「やはり奴らも関わっていたか」
ベティーナが唸る。
その時、空間全体が大きく揺れ動いた。まるで、何かが俺たちに語りかけようとしているかのように。
「これは……」
俺は思わず目を見開いた。理解できない言葉が、直接心に響いてくる。それは、この螺旋状建造物、いや、むしろこの次元の狭間そのものからのメッセージのようだった。
「みんな、聞こえるか?」
全員が頷く。彼らにも何かが伝わっているようだ。
そのメッセージは、言葉というよりもイメージや感覚の連なりだった。それは、遥か古代から続く地球の歴史、人類の進化、そして、その背後にある何か大きな意志のようなものを示していた。
「これは……」
彩姫が震える声で言う。
「地球の……いえ、もしかしたら宇宙そのものの意思?」
その言葉に、誰も反論する者はいなかった。俺たちは、あまりにも壮大で理解を超えた何かと向き合っているのだと感じていた。
メッセージは続く。それは、Q-アルマ技術の起源が、単なる異星文明の遺物ではなく、もっと根源的な宇宙の法則に基づいているということを示唆していた。そして、その力を正しく使うことが、人類の次なる進化への鍵となることも。
「つまり……」
シャーロットが慎重に言葉を選びながら話し始める。
「私たちに与えられたQ-アルマの力は、単なる武器や道具ではない。それは、人類の可能性を試す、ある種の試練なのかもしれない」
楓が静かに付け加える。
「古来より伝わる神々の言葉……あれも、もしかしたらこういった次元を超えた存在からのメッセージだったのかもしれません」
その時、俺の【クォンタム・シンクロ】が限界に達したようだ。意識が急速にもとの次元に引き戻されていく。
「みんな、もう限界だ。戻るぞ!」
俺の声と共に、全員の意識が現実世界へと帰還した。俺たちは再び、北海道の荒野に立っていた。螺旋状の建造物は、まるで何事もなかったかのように静かにそびえ立っている。
しかし、俺たちの内側では、何かが大きく変化していた。
「これからどうする?」
クロエが不安そうに尋ねる。
彩姫が周囲を見回しながら答える。
「まずは、龍堂先生たちのいる研究室に戻らないと。ここで得た情報を共有する必要があるわ」
シャーロットが付け加える。
「そうね。それに、この次元断層から脱出する方法も考えなければ」
「研究室までなら普通に飛んで戻れる」
ベティーナが言う。
「問題は、そこからQH学園にどうやって戻るかだな」
楓が静かに意見を述べる。
「みなさん……さっきの経験で得た新しい力を使えば、もしかしたら……」
「そうか!」
俺は楓の言葉に続いた。
「俺たちのQ-アルマなら、量子もつれを利用して研究室ごと転移できるかもしれない!」
彩姫が目を輝かせる。
「そうね。でも、それには6人全員の力を結集する必要があるわ」
全員が頷き、まずは研究室に戻ることに同意した。俺たちは再びQ-アルマを展開し、螺旋状の建造物を後にした。
北海道の荒野を飛行しながら、俺たちはさっきの体験について話し合った。次元を超えた存在からのメッセージ、Q-アルマの本当の意味、そして人類の可能性。どれも簡単には理解しきれない重大な問題だ。
「ねえ」
クロエが不安そうに言う。
「わたしたち、本当にこんな大きな責任を担えるのかな」
「不安なのはわかる」
俺は彼女に微笑みかけた。
「でも、俺たちにはチームの力がある。一人じゃない」
シャーロットが同意する。
「そうよ。それに、私たちには選択肢がないわ。この力を与えられた以上、正しく使う義務があるのよ」
会話を続けているうちに、研究室の姿が見えてきた。着陸すると、龍堂先生たちが心配そうな顔で出迎えてくれた。
「無事だったか」
龍堂先生が安堵の表情を浮かべる。
「何か、大きなものを見てきた顔をしているな」
彩姫が一歩前に出て、静かにだがしっかりとした口調で言った。
「はい、先生。私たち、全てを知りました。そして……先生の本当の意図も」
龍堂先生の表情が複雑に変化する。
「そうか……では、全てを話そう。あの事故の真相も、そしてこれからの私たちの使命についても」
「その前に」
ベティーナが口を挟む。
「ここからQH学園に戻る方法を考えないといけません」
「そうだったな」
龍堂先生が我に返ったように言う。
「何度も計算やシミュレーションを繰り返しているが、この次元断層を抜けるのは簡単ではない」
「拙者たちに考えがあります」
楓が静かに言った。
「6人のQ-アルマを使って、量子もつれを利用した大規模転移を……」
龍堂先生の目が驚きで見開かれた。
「まさか……まだQ-アルマには量子もつれを利用するような技術は、搭載していないはずだ」
「説明している時間はありません」
彩姫が決然と言う。
「先生、私たちを信じてください」
龍堂先生はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「わかった。みんなを信じよう」
俺たちは互いに顔を見合わせ、頷き合った。これから行うのは、誰も試したことのない危険な転移だ。しかし、もはや恐れる必要はない。俺たちには、あの次元を超えた体験で得た新たな力と、そして何より固い絆がある。
「みんな、準備はいいか?」
俺は仲間たちに声をかけた。
5人のヒロインたちが力強く頷く。
「じゃあ、始めよう」
6人のQ-アルマが光り始め、研究室全体を包み込むように輝き出した。俺たちの意識が一つに繋がり、QH学園の姿を鮮明に思い描く。
空間がゆがみ始め、現実が波打つような感覚。
そして、光が収まると、そこには見慣れたQH学園の敷地が広がっていた。
「やった……」
クロエが小さく呟く。
「戻ってこれたのね」
龍堂先生は呆然としながらも、感動的な表情を浮かべていた。「みんな……本当に素晴らしい。これで、私たちに新たな希望が……」
「先生」
俺は静かに、しかし力強く言った。
「俺たちに、全てを話してください。そして……これからどうすべきかを、一緒に考えましょう」
龍堂先生はゆっくりと頷いた。そして、俺たちを取り巻く大きな物語が、今まさに新たな章を迎えようとしていた。
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