第21話 螺旋の謎と次元の共鳴

 俺たち6人は、展開したQ-アルマに身を包み、謎の螺旋状建造物に向かって慎重に進んでいた。北海道の広大な原野に不釣り合いなその建物は、私たちが近づくにつれてその異様さを増していった。


「みんな、警戒を怠らないように」


 彩姫の冷静な声がQ-アルマの通信機能を通じて響く。


「この建物、明らかに通常の建築物じゃない」


 確かに、螺旋状の外観は地球上の建築様式とは全く異なっていた。まるで巨大な貝殻のような形状で、その表面には幾何学的な模様が刻まれている。


「まるで伝統的な文様のようですね」


 楓が静かに呟いた。


「でも、どこか違和感があります……」


 クロエが興奮気味に割り込んできた。


「ねえ、みんな見て! 建物の周りの地面、なんだか歪んでない?」


 彼女の指摘で改めて注目すると、建物の周囲の空間がわずかに揺らいでいるのが分かった。まるで水面に映った景色のように、現実が歪んでいる。


「次元断層の影響ね」


 彩姫が分析的な口調で説明を始める。


「この建物自体が、何らかの形で次元断層と相互作用しているんでしょう」


 その時、俺の中で何かが反応した。【クォンタム・シンクロ】の力が、この奇妙な環境に呼応するように蠢いている。


「みんな、俺の中で何かが……」


 言葉を最後まで発する前に、突然の衝撃が俺たちを襲った。建物全体が発光し始め、その螺旋構造が回転を始めたのだ。


「っ!」


 思わず目を閉じたその瞬間、俺の意識が急速に拡張していくのを感じた。【クォンタム・シンクロ】が勝手に発動し、周囲の空間と共鳴し始めている。


 目を開けると、そこはもはや北海道の荒野ではなかった。俺たちは奇妙な空間に浮かんでいた。無数の光の糸が織りなす宇宙のような光景。そして、その中心にあるものには、見覚えがあった。


「あれは……地球?」


 シャーロットが驚きの声を上げる。


 確かに、遠くに見えるのは紛れもなく地球だった。しかし、その周りを取り巻くのは、俺たちが知る宇宙とは全く異なる光景。様々な次元が重なり合い、交差している。


「信じられない……」


 ベティーナが呟く。


「これが次元断層の正体なのか?」


 その時、突如として俺たちの周りに無数の映像が浮かび上がった。それは、この奇妙な建造物で行われていた実験や研究の記録のようだった。


「これは……」


 彩姫が映像を注視しながら話し始める。


「クォンタム・ギア、ひいてはQ-アルマ技術を使って、意図的に次元断層を作り出す実験をしていたみたいね」


 次々と映し出される映像。クォンタム・ギアから取り出した量子エネルギーを利用するQ-アルマを改造し、その量子エネルギーを増幅させることで、現実の次元を歪ませる実験。そして、その結果として引き起こされた大規模な次元断層の発生。


「まさか……」


 クロエが声を震わせる。


「この実験が、北海道全域を覆う次元断層の原因だったの?」


 その推測は正しいようだった。映像は更に続き、実験の結果引き起こされた予想外の事態を示していた。制御不能となった次元断層。研究施設の崩壊。


「あれは!」


 楓が叫ぶ。


「Q-アルマの強奪……!?」


 確かに、混乱の中でQ-アルマが何者かに奪われていく様子が映し出されていた。


「シャドウ・ネクサスの仕業か」


 ベティーナが唸る。


 しかし、その推測を覆すかのように、次の映像が俺たちを驚かせた。Q-アルマを奪っていたのは、シャドウ・ネクサスではなく、見覚えのある制服を着た人々だった。


「QH学園の関係者……?」


 思わず声が漏れる。


「そうね」


 彩姫が冷静に状況を分析する。


「でも、龍堂先生の姿は見当たらないわ」


 その言葉に、チーム全員が言葉を失った。俺たちが信頼していた学園の一部が、このような危険な実験に関与していたなんて、信じたくなかった。


「でも、それじゃあシャドウ・ネクサスの関与は……?」


 クロエが疑問を投げかける。


 その答えは、次の映像が示していた。シャドウ・ネクサスのメンバーらしき人物たちが、崩壊した研究施設を調査している様子。そして、彼らが何かのデータを持ち去っていく。


「つまり」


 シャーロットが整理する。


「QH学園の一部が危険な実験を行い、龍堂先生たちがその結果を知って危険性を察知し、証拠を隠滅しようとした。そして、シャドウ・ネクサスがその情報を入手し、何かを企んでいる……という事ね」


 この事実は、俺たち全員に大きな衝撃を与えた。信じていた組織の中にも秘密があったこと。そして、敵の目的がより複雑になったこと。チームの中に、動揺と困惑が広がる。


「どうすれば……」


 楓が不安そうに呟く。


 その時、俺の中で再び【クォンタム・シンクロ】が反応した。そして、不思議な感覚が全身を包む。まるで、この空間全体と一体化したかのように感じる。


「みんな」


 俺は決意を込めて言った。


「確かに状況は複雑だ。でも、俺たちにしか出来ないことがあるはずだ」


「そうね」


 彩姫が頷く。


「この情報を正しく理解し、適切に行動することが私たちの責任よ」


「そうよ!」


 クロエが元気よく同意する。


「この螺旋、きっと私たちを導いてくれているんだと思うわ」


 シャーロットが付け加える。


「そして、この経験で得た知識は、必ず将来の戦いで役立つはず」


「まったくだ」


 ベティーナが力強く言う。


「どんな真実であろうと、それに立ち向かうのがQ-アルマを駆ることが許された我々の務めだ」


 楓も静かに、しかし強い決意を込めて言った。


「この地に眠る古い知恵と、私たちの力を合わせれば、きっと道は開けるはず」


 その瞬間、俺たちのQ-アルマが一斉に輝きを放った。まるで俺たちの決意に呼応するかのように、新たな力が湧き上がる。


「これは……」


 驚きの声と共に、俺たちは自分たちのQ-アルマが変化しているのを感じた。【クォンタム・シンクロ】を介して、この奇妙な次元の力が俺たちのQ-アルマに流れ込んでいる。


 彩姫のQ-アルマ『霜雪帝姫そうせつていひ』の周りに、氷の結晶が幾何学的なパターンを描き始めた。クロエの『Mirage Gourmandミラージュ・グルマン』からは、様々な次元の香りが漂い始める。シャーロットの『Royal Aegisロイヤル・イージス』は、まるで複数の現実を同時に体現するかのように、幾つもの姿を重ね合わせていく。楓の『風刃神剣ふうじんしんけん』は、見たこともない古代の文様を纏いながら、風と共に舞い始めた。ベティーナの『Eiserne Festungアイゼルネ・フェストゥング』は、その装甲が次元を超えた強度を帯び始める。


 そして、俺の『限槍零式げんそうれいしき』は、全てのQ-アルマの力を一つに統合するかのように、虹色の光を放っていた。


「これが、私たちの新たな力……」


 彩姫の言葉に、全員が頷く。この力をどう使うか、その選択はこれからの俺たちにかかっている。しかし、一つだけ確かなことがある。


 俺たちは、この螺旋の謎に導かれ、新たな次元へと踏み出したのだ。そして、その先にある真実と、人類の未来のために戦う覚悟を、この瞬間に固めたのだった。

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