第18話 海辺の戦い
朝もやに包まれた無人島の浜辺。波の音と鳥のさえずりだけが響く静寂の中、俺たちは日課となった早朝トレーニングに励んでいた。砂浜を走り、海水の中でのレスリング、そして瞑想。Q-アルマなしでの訓練は、想像以上に過酷だったが、それ以上にチームとしての成長を実感できる日々でもあった。
「よーし、みんな! 今日も頑張るぞ!」
俺の掛け声に、ヒロインたちが思い思いに応える。以前なら冷ややかな反応しか返ってこなかっただろうが、今では全員が前向きな返事をくれる。特に彩姫の変化は顕著だった。
「ふふ、今日こそまぐれ勝ちなんてさせませんからね」
彼女の挑発的な微笑みに、俺は思わず苦笑いする。かつての冷たさは影を潜め、今では健全な競争心と、どこか温かみのある態度に変わっていた。それでも、彼女の言葉には俺の未熟さを指摘する鋭さが込められている。
「まぐれだなんて言わせないさ」
俺は抗議するように言った。
「いつかは本当の実力で勝ってみせる!」
「その意気よ」
彩姫が小さく笑う。
「でも、そのためにはもっと努力が必要よ。さあ、始めましょう」
彼女の挑戦的な微笑みに、俺は思わずドキリとする。かつての冷たさは影を潜め、今では健全な競争心と、どこか温かみのある態度に変わっていた。
早朝トレーニングが佳境に入ったころ、突如として島の静寂を破る轟音が響き渡った。
「な……なんだ!?」
振り向くと、海面から巨大な影が姿を現す。それは間違いなく以前戦闘になったシャドウ・ネクサス所属のQ-アルマだった。
「警戒!」
ベティーナの鋭い声が響く。
「これは訓練ではない。実戦だ!」
一瞬の間に、浜辺は戦場と化した。
「くっ、まさかこんなところまで……!」
シャーロットが歯ぎしりする。
「Q-アルマなしか……これは厳しいわね」
クロエの声には珍しく緊張が滲んでいた。
「でも、ここで負けるわけにはいかないわ!」
楓の凛とした声が響く。
俺は深呼吸をして、冷静になろうとした。ここで動揺してはいけない。みんなの力を結集すれば、きっと勝てる。そう信じて、俺は声を張り上げた。
「みんな、落ち着いて! 今までの訓練を思い出すんだ。俺たちにはQ-アルマ以上の力がある。それは……」
「チームワークね」
彩姫が俺の言葉を受け取る。
「そうよ、私たちにはそれがある」
全員の目が輝きを取り戻す。そうだ、これこそが俺たちの真の力なんだ。
「よし、作戦を立てよう」
俺は砂浜に即席の作戦図を描き始めた。
「ベティーナ、敵の数と装備は?」
ベティーナは鋭い目で敵を観察し、即座に答えた。
「主力となるQ-アルマは1機のみ。他に支援用小型メカ3機。Q-アルマには高出力のエネルギー砲を搭載しているわ」
「彩姫、作戦を頼む」
「任せて」
彩姫は作戦を説明し始めた。
「クロエとシャーロット、あなたたちは小型メカの注意を引きつけて」
「分かったわ。私のチャーミングな魅力で、メカだって虜にしてみせるわよ」
クロエがウインクする。
「まったく……でも、任せなさい」
シャーロットも決意を固める。
「楓、あなたは島の植物を使って、視界を遮る煙幕を作ってほしいの」
楓は頷いた。
「心得ました。この島の植物ならすでに把握済みです。私にお任せを」
「ベティーナは、私と悠哉くんの護衛をお願い。私たちで主力メカに挑むわ」
「了解した。全力で守り抜く」
ベティーナの声には揺るぎない決意が込められていた。
「悠哉くん。あなたと私であのQ-アルマの弱点を見つけ出すのよ。あなたの突破力がカギだわ」
彩姫の言葉に真剣な表情で頷いた。
「ああ、任せてくれ。必ず突破する」
作戦の準備が整うと、俺たちは一斉に動き出した。クロエとシャーロットは、挑発的な動きで小型メカを誘い出す。その華麗な動きに、メカの注意が完全に奪われた。
楓は驚くべき速さで、島の植物から煙幕を作り出した。以前からトレーニングにも活用していたため、ある程度の準備があった。とはいえ、瞬く間に戦場は白い霧に包まれ、敵の視界を遮った。
その隙に、俺と彩姫はベティーナの護衛のもと、主力のQ-アルマに接近する。QH学園で使用しているQ-アルマとは違い、頭や胴部分も全身甲冑かのように覆われている。これでは、弱点なんてないのではないか。幸いなことに、この島は俺たちのトレーニング用にQ-アルマに対する妨害電波が発されている。そのため、支援用の小型メカは飛び回っているが、Q-アルマは砂浜に着地している。その上、楓の煙幕によって視界も封じられているのだ。
一気にQ-アルマに近づきたいところではあるが、ここで俺の未熟さが露呈した。砂浜の不安定な足場に戸惑い、何度も転びそうになる。
「悠哉くん、しっかりして!」
彩姫の声が耳に届く。
「あなたの突破力が必要なの」
彩姫の鋭い観察眼が、メカの動きの隙を次々と指摘してくれる。俺は自分の弱点を痛感しながらも、チームの力を信じて前進し続けた。
「あそこよ!」
彩姫が叫ぶ。
「頭部と胴体の接合部、構造上の弱点があるわ」
「了解!」
俺は全力でその場所を目指す。ベティーナが的確な指示で、敵の攻撃から俺たちを守ってくれる。
一方、クロエとシャーロットは見事なコンビネーションで小型メカを翻弄していた。クロエの予測不能な動きと、シャーロットの気品ある立ち回りが、絶妙なバランスで敵を混乱させている。だが、飛び回る小型メカに空気がかき混ぜられ、白い煙幕が晴れてきてしまっている。
「悠哉!」
シャーロットの声が響く。
「これ以上は食い止められないわ!」
時間との戦いだった。俺は全身の力を振り絞り、敵のQ-アルマの弱点に向かって跳躍する。しかし、足が滑り、バランスを崩してしまう。
「くそっ……っ?」
その瞬間、突如として視界が真っ白になった。まるで時間が止まったかのような感覚。そして、俺の意識が拡大していく。チームメンバー全員の存在を、まるで自分の一部のように感じ取れる。これは、クォンタム・シンクロ?
その瞬間、俺の体が勝手に動き出した。いや、正確には俺たち全員が一つの意志のように動いていた。クロエの柔軟性、シャーロットの精密さ、楓の俊敏性、ベティーナの力強さ、そして彩姫の冷静な判断力。全ての能力が一つになり、俺の中で融合する。
完璧な挙動で、敵Q-アルマの弱点を突き、システムをダウンさせる。小型メカも、まるで踊るように避けながら、次々と無力化していく。
気がつけば、戦いは終わっていた。砂浜に横たわる敵の小型メカを前に、俺たちは呆然と立ち尽くす。ダウンさせたはずのQ-アルマはいつの間にか砂浜から消えていた。
「今の……なんだったの?」
クロエが驚きの声を上げる。
「まるで……全員の意識が繋がっていたような……」
楓が呟く。
彩姫が俺をじっと見つめる。
「悠哉くん、あなたの能力ね。でも、まだ制御できていないわね」
俺は頷くしかなかった。
「ああ……みんなの力を借りなきゃ、何もできなかった」
ベティーナが厳しい表情で言う。
「確かに貴様の操縦技術はまだまだだ。でも、あの判断力と……不思議な力は認めざるを得ないわ」
「そうね」
シャーロットが付け加える。
「あなたには大口をたたくに値する他にない何かがある。でも、基本はしっかり磨かないとね」
俺は恥ずかしさと決意が入り混じった気持ちで頷いた。
「ああ、もっと頑張るよ。みんなに追いつけるように」
「よし、じゃあ訓練メニューを倍にしよう」
ベティーナの言葉に、思わず青ざめる俺。
全員が笑い声を上げる中、俺は改めて自分の立ち位置を実感していた。まだまだ未熟で、みんなの足を引っ張ることもある。でも、このチームなら、きっと俺も成長できる。
「ひとまずは、早くQH学園に連絡を取らないと」
ベティーナの現実的な提案に、全員が我に返る。
この戦いは終わったが、より大きな戦いはまだ始まったばかりだった。俺たちは固く握手を交わし、未知の敵に立ち向かう決意を新たにしたのだった。
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