第17話 試される絆

 灼熱の太陽が頭上から容赦なく照りつける中、俺たちは無人島の砂浜に立っていた。


「さて、皆さん」


 龍堂学園長の声が響く。


「これから一週間、この島で過ごしてもらいます」


 その言葉に、全員が緊張した面持ちで頷く。


「まずは、キャンプ地の設営です。ただし……」


 学園長の目が鋭くなる。


「Q-アルマは使用禁止です」


「えっ!?」


 クロエが思わず声を上げる。


「そうです」


 学園長は厳しい表情を崩さない。


「この合宿の目的は、Q-アルマに頼らない状況でのチームワークを磨くこと。自分たちの力だけで、生き抜くんです」


 その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


「では、頑張ってください。一週間後の朝、訓練の詳細を説明しにきます」


 そう言い残して、学園長はヘリコプターに乗り込み、あっという間に島を後にしてしまった。


「さて……どうする?」


 俺の問いかけに、みんなが思い思いの反応を示す。


「まずは水源の確保ね」


 彩姫が冷静に言う。


「それと、食料の調達も必要よ」


「私が食事の準備を担当するわ」


 クロエが元気よく手を挙げる。


「でも……コンロがないと火が使えないのよね」


「任せてください」


 楓が静かに言った。


「火起こしなら、私がお手伝いできます」


「寝床の確保も重要だな」


 ベティーナが腕を組んで言う。


「簡易シェルターを作るべきだ」


「私が全体の指揮を執りましょう」


 シャーロットが一歩前に出る。


「皆さん、自分の得意分野で貢献してください」


 そうして、俺たちの過酷な一週間が始まった。


 最初の数日は、まさに地獄だった。


 水汲みに行った俺とベティーナは、途中で道に迷い、何時間もジャングルをさまよった。


「くそっ……こんなところで迷子になるなんて」


 俺が苛立ちを隠せずにいると、ベティーナが厳しい口調で言う。


「落ち着け、モリムラ。パニックになっても何も解決しない」


 その言葉に、俺は深呼吸をして冷静さを取り戻した。


 一方、食料調達に向かったクロエと彩姫は、意見の衝突で作業が進まなかった。


「もう!なんでこんな方法で魚を取るの?非効率的よ!」


 クロエの不満の声に、彩姫が冷たく返す。


「理論的に考えれば、この方法が最適なのよ。感覚だけで動かないで」


 二人の言い争いは、夜まで続いた。


 シェルター作りを担当した楓とシャーロットも、問題に直面していた。


「シャーロットさん、もう少し枝を……」


「いいえ、こうすべきよ。私の指示に従って」


 楓の提案をシャーロットが遮り、作業は難航した。


 夜になっても、問題は続いた。狭いシェルターの中で、全員が疲れと苛立ちを隠せずにいた。


「もう……みんな臭いわ」


 クロエが鼻をつまむ。


「贅沢を言っている場合じゃないわ」


 彩姫が厳しく言い返す。


「静かにしてくれ。休息が必要だ」


 ベティーナが目を閉じたまま言う。


 俺は、こんな状況でチームの結束なんて無理なんじゃないかと、絶望的な気分になっていた。


 しかし、三日目の夜、事態は思わぬ方向に転換した。


 その夜、突然の豪雨に見舞われたのだ。


「シェルターが崩れる!」


 シャーロットの悲鳴に、全員が飛び起きる。


「みんな、急いで!」


 俺の叫び声と共に、全員が無我夢中でシェルターの補強に取り掛かった。


 雨の中、ずぶぬれになりながら、みんなが力を合わせる。


 彩姫とクロエが協力して荷物を安全な場所に移動させ、ベティーナと楓が素早く木の枝を集めて補強。シャーロットが的確な指示を出し、俺がそれに従って全体を取りまとめる。


 気がつけば、雨は上がっていた。


「みんな……やったぞ!」


 俺の声に、全員が顔を見合わせる。そして、次の瞬間、思わず笑いが溢れた。


 泥だらけで、ずぶぬれで、疲れ切っているのに、みんなの顔には達成感に満ちた笑顔が浮かんでいた。


「ユウヤ、さっきはすごく的確だったわ」


 クロエが目を輝かせて言う。


「護斑……いや、悠哉くん。あなた、意外とリーダーシップがあるのね」


 彩姫が少し驚いた様子で言った。


「悠哉殿、素晴らしい判断でした」


 楓が静かに頷く。


「お前、なかなかやるじゃないか」


 ベティーナが肩を叩いてくる。


「まあ、私の指示が良かったからよ」


 シャーロットが言うが、その目は優しく笑っていた。


 俺は、みんなの言葉に照れながらも、胸が熱くなるのを感じた。


 その夜、みんなで火を囲みながら、初めて本当の意味での会話を交わした。


 それぞれの不安や、迷い、そして夢。


 今まで知らなかったお互いの一面を、少しずつ理解し始めた気がした。


 眠りにつく前、この絆を必ず強くしていこうと、俺は心の中で誓った。


 星空の下、俺たちの新たな一歩が始まったのだった。

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