第16話 夏の足音

 梅雨明けを告げる蝉の声が、QH学園の敷地に響き渡っていた。夏の到来を感じさせる暑さの中、俺たちは作戦室に集められていた。


「さて、皆さんにお知らせがあります」


 龍堂学園長の声が、緊張感漂う空気を切り裂いた。


「来週から、夏季合宿を行います。場所は、南の無人島にある訓練施設です」


 その言葉に、俺たちの間でざわめきが起こる。


「無人島……?」


 俺が思わず呟くと、彩姫が冷静な声で補足した。


「おそらく、極限状態での訓練を行うためでしょうね」


 学園長が頷く。


「その通りです、氷雨ひさめさん。この合宿の目的は、皆さんのチーム結束力を向上させることです」


「チーム結束力……」


 クロエが小さな声で繰り返した。その瞳に、少しの不安の色が浮かぶ。


「前回の戦闘で、皆さんは素晴らしい力を見せてくれました」


 学園長は続ける。


「特に護斑君の覚醒は驚異的でした。しかし……」


 一瞬の沈黙。


「しかし、それはあくまで偶然の産物です。本当の意味でのチームワークとは言えません。それに、あれ以来、自発的な発動はできていないようですし」


 その言葉に、全員が顔を曇らせた。


「ですが」


 学園長の声が明るくなる。


「そこに大きな可能性があるのも事実です。この合宿で、皆さんの潜在能力を最大限に引き出し、真の意味でのチームとなってほしい」


 シャーロットが優雅に髪をかきあげながら言った。


「では、具体的にどのような訓練を行うのでしょうか?」


「それは、合宿地に着いてからのお楽しみです」


 学園長が微笑む。


「ただ、過酷な訓練になることは間違いありません。十分な準備をしておいてください」


「了解しました」


 ベティーナが力強く答える。


「我々にとって良い機会となるはずです」


「そうですね」


 楓が静かに頷く。


「チームとしての絆を深められることを楽しみにしています」


 学園長の説明が終わり、俺たちは準備のため解散した。廊下を歩きながら、俺はチーム結束力について考え込んでいた。


 確かに、前回の戦いではみんなと完璧に連携できた。でも、あれは『クォンタム・シンクロ』の力によるものだ。本当の意味での結束には、まだ遠い気がする。それに、学園長が言うように、あれから訓練中に何度も発動させようとしているが、まったくもって成果がない。夢や幻だったと言われた方が、まだ信じられる気がする。


「ねえ、ユウヤ」


 突然、クロエの声が聞こえた。振り返ると、彼女が不安そうな表情で立っていた。


「どうしたの、クロエ?」


「あのね……私、無人島での生活なんて初めてで……」


 彼女の声が震えている。


「都会育ちの私に、ちゃんとできるかな……」


 その言葉に、俺は思わず微笑んだ。


「大丈夫だよ。俺たちがいるじゃないか。みんなで協力すれば、きっと乗り越えられる」


 クロエの表情が、少し明るくなる。


「そうね……ありがとう、ユウヤ」


 その時、後ろから冷たい声が聞こえた。


「甘いわよ、護斑」


 振り返ると、彩姫が腕を組んで立っていた。Q-アルマを展開していないのに、彩姫の全身から冷たい風が吹き出しているような気さえしてくる。


「これは訓練なのよ。『協力すれば何とかなる』なんて甘い考えじゃ、厳しい現実を乗り越えられないわ」


 その言葉に、俺とクロエは言葉を失う。


「でも」


 彩姫の表情が少し和らぐ。


「それでも……みんなで頑張りましょう」


 その言葉に、俺たちは驚きの表情を浮かべた。


「氷雨さん……」


「なっ、何よ!」


 彩姫が顔を赤らめる。


「当たり前のことを言っただけよ!」


 そう言って、彼女は急いで立ち去っていった。


「あらあら」


 今度はシャーロットの声。


「みんな、準備は順調?私はもう、必要なものはすべて揃えたわ」


「さすがだな、シャーロット」


 ベティーナが感心したように言う。


「我もこれから準備するところだ」


「私も手伝わせていただきます」


 楓が控えめに言った。


「みんなで協力して準備すれば、きっとスムーズに進むはずです」


 俺は、みんなの様子を見ながら、必ずみんなで乗り越えてみせると、心の中で誓った。この合宿を通して、俺たちは本当のチームになるんだ。


 教室の窓から差し込む夕日が、俺たちの姿を優しく照らしていた。


 夏の足音と共に、新たな挑戦の時が近づいていた。

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