第14話 覚醒の瞬間

 真っ白な光に包まれた瞬間、時間が止まったかのように感じた。


「これで……終わりなのか?」


 そう思った直後、突如として体の奥底から何かが湧き上がってきた。それは、今まで感じたことのない強烈な感覚だった。まるで体中の細胞が一斉に目覚めたかのように。


「『クォンタム・シンクロ』」


 その言葉が、俺の意識の中で響いた。


 次の瞬間、世界が一変した。


 真っ白だった視界が、鮮明な色彩を取り戻す。そして、今まで見えていなかったものが見えるようになった。周囲の空気の流れ、敵の動きの軌跡、仲間たちの息遣い。全てが、まるで色のついた線のように見える。


「これが……クォンタム・シンクロ……?」


 俺の声に、驚きの色が滲む。


「護斑!?」


 彩姫の声が聞こえる。彼女の驚きが、はっきりと伝わってきた。


「ユウヤ、あなたのQ-アルマが……!」


 クロエの声。俺は我に返り、自分のQ-アルマを見下ろした。【限槍零式げんそうれいしき】の姿が一変していた。深い紺青色だった機体が、今や金色に輝いている。


「なんてこと……」


 シャーロットの声にも、驚きが混じっている。


 その時、再び襲いかかってくる【ダークファントム】。しかし、もはや彼らの動きは遅く見える。


「行くぞ……!」


 俺は意識を集中させる。すると、【限槍零式】が俺の思考に呼応するかのように動き出した。


 一瞬で敵の背後に回り込み、光の槍を放つ。それは、今までの『無限槍製むげんそうせい』とは比べものにならないほどの威力だった。一撃で、ダークファントムが粉々に砕け散る。


「すごい……」


 楓の声が聞こえる。


「護斑、お前……急に強くなりすぎだ!今まで手を抜いていたのか!?」


 ベティーナの声には、驚きと共に警戒心も混じっていた。


 しかし、俺には彼女たちに応えている暇はなかった。次々と襲いかかってくる敵に対して、俺は本能のままに動く。


「みんな、俺に合わせて!」


 その言葉と共に、俺は敵陣に突っ込んでいった。


 驚くべきことに、仲間たちのQ-アルマが俺の動きに完璧に同調し始める。まるで、俺たち全員が一つの意識で動いているかのように。


 彩姫の氷の矢が、俺の光の槍と融合し、凍てつく光線となって敵を貫く。クロエの幻惑の霧が、俺の周りを取り巻き、敵の感覚を更に惑わせる。シャーロットの支援能力が増幅され、チーム全体の性能が飛躍的に向上する。楓の風の刃が、俺の動きと完璧に同期し、敵の死角を突く。ベティーナの重装甲が、俺の高速移動を妨げることなく、チームを守る盾となる。


「これが……クォンタム・シンクロの力……!原理も何もかもわからねぇけど、これなら!」


 俺の心の中で、歓喜の声が響く。今まで感じたことのない高揚感。全てを把握し、全てを制御できる感覚。


 しかし同時に、どこか遠くで警告のような声も聞こえる。


「この力を使いすぎると……」


 その声の意味を理解する前に、俺の意識は戦闘に没頭していった。


 【ダークファントム】の大群が、俺たちの前にひれ伏していく。


 空から降り注いでいた黒い影が、次々と消えていく。


 気がつけば、学園上空に浮かんでいた巨大な円盤も、跡形もなく消え去っていた。


「や、やった……?」


 クロエの不確かな声が聞こえる。


「ああ、どうやら勝利したようだな」


 ベティーナが答える。その声には、安堵と共に疲労感が滲んでいた。


「護斑……いや、悠哉くん。あなた、一体何が……」


 彩姫の声が聞こえる。しかし、その言葉の最後を聞く前に、俺の意識が遠のいていった。


「あれ……?」


 そう呟いた瞬間、【限槍零式】の光が消え、空中から落下し始める。


「悠哉!」


 仲間たちの叫び声が聞こえる。


 しかし、もう俺にはそれに応える力が残っていなかった。


 意識が闇に沈む中、最後に頭をよぎったのは、「みんなを……守れたかな……」という思いだった。

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