第12話 学園祭の準備
学園の敷地内に設置された巨大な訓練場で、俺たちのQ-アルマが向かい合っていた。夏の日差しが照りつける中、冷たい風が吹き抜けていく。それは氷雨彩姫のQ-アルマ【
「行くわよ、護斑!」
彩姫の冷たい声と共に、霜の刃が俺のQ-アルマ【
「まだまだね、護斑。反応が遅すぎるわ。今からでも実験施設行きを希望した方がいいんじゃないかしら」
彩姫の冷ややかな指摘に、俺は歯軋りする。クラス成績1位のみならず、学年1位である彩姫の言葉に、返す言葉がない。1年生の成績ランキング上位5名に、唯一の男子操縦士候補生である俺を加えた6人でチームを組んでいるが、俺の操縦技術が最も未熟なのは明らかだった。
「おっと、ユウヤ!そんなところで固まっていちゃダメよ!」
クロエの声が聞こえ、次の瞬間、彼女のQ-アルマ【
「集中するんだ、モリムラ!敵は目の前だけじゃない!」
ベティーナの厳しい声が響く。彼女のQ-アルマ【
「護斑殿、背後にご注意を!」
楓の警告と共に、彼女の【
「みんな、バラバラだ!もっと連携を!」
龍堂学園長の声がインカムから聞こえてくる。
「学園祭でのデモンストレーションまであと1週間しかないんだぞ!世界中の要人たちの前で恥をかくわけにはいかない。QH学園の独立性を強めるチャンスなんだ!」
そうだ。来週の学園祭で行われるQ-アルマのデモンストレーション。各学年の成績ランキング上位者たちがチームを組んで披露する中、1年生である私たちは特に注目を集めている。ランキング上位5名に加えて、唯一の男子操縦士候補生である俺が加わったことで、話題性は抜群だ。それだけに、失敗は許されない。
「申し訳ありません」
シャーロットの声が響く。
「私たちの連携が足りていませんわ」
訓練が一時中断され、俺たちは地上に降り立った。Q-アルマを収納し、汗を拭きながら円陣を組む。
「あー、みんな。どうしたら連携を良くできると思う?」
俺は恐る恐る仲間たちの顔を見回しながら問いかけた。
彩姫が冷ややかな目で俺を見つめる。
「まず護斑、あなたの操縦技術を向上させることね。あなたがいるせいで、全体の動きが鈍くなっているわ。世界中の要人たちに、QH学園の実力を示すチャンスなのよ」
その言葉に、俺はつい顔を背けてしまう。確かに、俺の存在がチームの足を引っ張っている。
クロエが慌てて口を挟む。
「まあまあ、サキちゃん。ユウヤだって頑張ってるわ。それに、唯一の男子操縦士候補生がいることで、わたしたちのチームは特別な注目を集めているのよ。それより、もっと直感的に、お互いの呼吸を感じ合えるようになれば……」
「規律だ」
ベティーナが真剣な表情で言う。
「各自の役割を明確にし、命令系統を整理すれば。他学年のチームに引けを取るわけにはいかないんだ」
「いえ」
楓が静かに首を振る。
「武道で言う"間合い"のようなものを、チーム全体で掴むことが大切かと。それこそが、QH学園の独自性を示すことになるのでは」
シャーロットがため息をつく。
「みんな正しいことを言っているのに、なぜかみんなバラバラね。このままじゃ、学園の評価を下げかねないわ」
その時、俺の中で何かが閃いた。
「そうか……みんなの意見、全部正しいんだ」
「どういうことですの、護斑?」
シャーロットが眉をひそめる。
「俺たち、それぞれ違う環境で育って、違う考え方をしてる。でも、それぞれの良さがあるんだ。それを活かせば……」
「なるほど!」
クロエが目を輝かせる。
「私たちの個性を活かしつつ、お互いを補い合えば良いのね!それこそが、世界に示すべきQH学園の強みになるわ!」
「護斑のわりには、理にかなっているわね」
彩姫が渋々頷く。
「異なる要素を組み合わせることで、より強固なシステムが構築できる。護斑、たまには良いことを言うのね」
「和の心……ですね」
楓が穏やかな表情を浮かべる。
「まさに、日本が開発主体となったQ-アルマ技術の本質を表現できそうです」
「まぁ……悪くない考えね」
シャーロットも認める。
「これなら、世界の要人たちにも印象深いデモンストレーションができそうよ」
「よし、これで作戦は決まりだな」
ベティーナが力強く言う。
「各自の強みを最大限に活かし、弱点を補い合う。それが我々の戦術となる。そして、それがQH学園の独立性を示す証となるんだ」
俺は仲間たちの顔を見回した。みんなの表情が、少しずつだが確実に変わっていく。これまでバラバラだった私たちが、一つのチームになろうとしている。
「じゃあ、もう一度やってみよう。今度は互いの個性を活かしながら」
全員が頷き、再びQ-アルマに搭乗する。
空高く舞い上がる6機のQ-アルマ。今度は違う。みんなの動きが、少しずつ噛み合い始めている。
彩姫の冷徹な分析、クロエの直感的な動き、シャーロットの気品ある指揮、楓のしなやかな身のこなし、ベティーナの堅実な防御。そして、それらを繋ごうと必死に動く俺。
バラバラだった私たちの動きが、少しずつ一つの流れになっていく。
訓練が終わり、夕暮れ時。疲れた体を引きずりながら、俺たちは学園の中庭に集まった。
彩姫がタブレットを取り出し、データを確認しながら口を開いた。
「今日の訓練データを分析したわ。護斑、あなたの動きもわずかながら向上したわね。唯一の男子操縦士候補生として、しっかり役割を果たしなさい。ただし、全体的な戦略にはまだ改善の余地があるわ」
彼女の冷静な分析に、俺は頷くしかなかった。彩姫の戦略立案者としての才能は、チームにとって不可欠だ。
「ふぅ……なかなか良い感じになってきたわね」
クロエが笑顔で言う。
「これなら、世界中の注目を集められそう!」
彼女は小さな紙袋を取り出し、中からエナジーバーを取り出して配り始めた。
「はい、みんな。特製の栄養補給バーよ。疲れているでしょ?」
クロエのサポートに、チームの雰囲気が和らぐのを感じた。
シャーロットが優雅に髪をかきあげながら言った。
「皆さん、お疲れ様。明日は各国要人たちへの事前説明会があるわ。私が代表として出席するけど、みんなの意見も聞かせてちょうだい」
さすが外交担当、と俺は思った。彼女の存在が、チームの社会的な立場を確固たるものにしている。
「みんなの心が一つになってきましたね」
楓が穏やかに微笑んだ。
「調和の取れた動きが、世界に新しい可能性を示せるはずです」
楓の言葉に、チーム全体が落ち着きを取り戻す。彼女の精神的な支えがあってこそ、俺たちは前に進めるんだ。
ベティーナが腕を組み、厳しい表情で言った。
「良くなってきたとはいえ、まだまだだ。明日からの訓練メニューはさらに厳しくなる。特に防御戦術の強化が必要だ。世界の要人たちに、QH学園の実力を示すんだ」
その言葉に、俺たちは身が引き締まる思いがした。ベティーナの指導があってこそ、チームは強くなれる。
最後に、俺は空を見上げた。夕焼けに染まる雲の間から、一番星が瞬いている。
「みんな、ありがとう。これからもよろしくな。俺も、このチームの一員として恥じないよう、必ず追いつくよ」
仲間たちの笑顔を見回しながら、俺は決意を新たにした。まだまだ未熟な俺だけど、このチームの調整役として、そしていつか中核となれるよう、必死に頑張ろう。
「よーし!」
クロエが元気よく声を上げた。
「明日からも頑張ろう!そうだ、今夜はみんなでお疲れ様会をしない?わたしが料理を作るわ!」
その提案に、みんなの顔が明るくなった。シャーロットも珍しく柔らかな表情を見せ、「悪くないアイデアね」と言った。
こうして、俺たちのチームは少しずつ結束を強めていく。世界の注目を集めるデモンストレーションまで、あとわずか。俺たちなら、きっと成功させられる。
しかし、その時はまだ知る由もなかった。学園祭当日、私たちを襲う予想外の出来事を。
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