第8話 チーム結成
夏休み直前の7月に開催される、新入生歓迎Q-アルマ競技大会に向け、クラス内でのチーム分けが行われた。操縦技術や個人特性の相性を見て、QH学園側でチーム分けが決まる。その結果、俺はクラスの成績上位5名とチームを組むことになった。
「まるでスポーツアニメの主人公みたいだな」と、俺は内心でつぶやく。
チーム分けが行われるという話を聞いた時、俺はチーム分けの対象外なんだと思い込んでいた。現状唯一の男性操縦士候補生である俺は、Q-アルマ操縦技術はQH学園でも一番下。ようやく周りについていけるようになってきたが、人に合わせるというよりも、合わせてもらうことばかり。
「まるで保育園児を連れてピクニックに行くようなものだろうな」と、自嘲気味に考える。
それに、チームは週末などで派遣される地域貢献活動でも、一緒に行動することになる。パワードスーツであるQ-アルマの力を活かして災害復旧支援などを行なっているそう。今までQ-アルマ操縦士は女性しかいなかったので、異性がいるチームを想定した支援車両などがない。そういう前情報を聞いていたので、俺はチームに入らず、今後現れるであろう他の男性操縦士候補生のため、効率的なシミュレーション訓練方法の確立や、実験協力をすると思っていた。
だが、蓋を開けてみれば、俺もチームに配属されていた。それも、クラスの成績上位5名と同じチームに。チーム発表を見たときの俺は、驚きのあまり固まってしまった。
「いやいやいやいや、どういうこと?」
頭を抱える俺の後ろからベティーナが声をかけてくる。
「頭を抱えてどうした?同じチームになったからには、Ausbildung(※トレーニングの意)の負荷を上げるから安心せい」
クラス成績5位は、ドイツからの留学生、ベティーナ・シュメリング。家は代々将校を輩出しているらしい。短く整えられた銀髪と、氷河のように冷たく輝く碧眼が印象的。すらりとした長身と引き締まった体つきは、軍人としての誇りを物語っているようだ。まるで彫刻のように完璧な容姿で、QH学園1年の王子様として多くの女子生徒の人気を獲得している。
「負荷を上げるって...まるで実験動物みたいだな」と、俺は心の中で苦笑する。
「あまり厳しくされますとこちらの稽古にも影響が出ますので、ほどほどでお願いしますね」
続けて声をかけてきたのは、クラス成績4位の
その楓が釘を刺してきた理由は、ある日の朝、ベティーナのトレーニングが一際厳しかったときがあったことに起因する。その日は夕方の楓との稽古の時点で全身筋肉痛になっており、素振りもまともにできなかった。あのときのことを言っているのだ。せっかく時間を割いてもらったにも関わらず、全然稽古にならなくて申し訳なかった。
「せいぜいわたくしたちの足を引っ張らない程度にがんばりなさい」
クラス成績3位のシャーロット・グリフィス。深紅の長髪と翠玉のような瞳のコントラストは圧巻で、その気品ある佇まいは思わず見とれてしまうほどだ。すらりとした長身は、どんな服装でも様になる。黙っていれば、まるで絵画から抜け出してきたと言われても信じてしまいそうだ。だが、イギリスの名門貴族だと言う高慢な物言いには、何度も頭に来ている。しかし、Q-アルマの操作技術は圧倒的に上。反論するたびに、Q-アルマ訓練では完膚なきまでにやられている。Q-アルマ訓練中、何度も相手をしてくれるからありがたいはありがたいのだが。
「まるで中世の貴族と平民の関係みたいだな」と、俺は内心でつぶやく。
「Mon Dieu!ユウヤなら大丈夫だよ。あ、抹茶クッキー焼いてみたんだけど、食べてくれる?」
屈託のない笑顔でクッキーの入った袋を差し出してくれたのは、クラス成績2位のクロエ・ヴィアール。フランスからの留学生だ。太陽の光を集めたかのような金髪と、大きな碧眼が印象的だ。彼女が笑うたびに現れる愛らしいえくぼ。やわらかそうな体つきは、彼女の明るい性格そのもののようだ。日本文化、特に和食に興味があるらしく、和食や日本文化について聞かれることが多い。
「クロエは、このハーレム……じゃなかった、チームの太陽だな」と、俺は心の中で微笑む。
「結局、実験施設行きを希望しなかったのね」
呟くように怖いことを言ったのは、クラス成績1位、だけじゃなく学年成績も1位の
「よろしくお願いします」
どういう意図があるのかまったくわからないが、5人の成績に影響を出さないようがんばろう。だが、次のQ-アルマ訓練のときに、この目標が難易度の高い目標であることに気づくのであった。
「ハーレムルートどころか、地獄のトレーニングルートに突入しそうだ」と、俺は内心で覚悟を決める。
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