第2話 氷の女王
「操作開始」
教官の声が響き、俺は緊張で震える手に力を込めた。指示通りに動かすだけだとわかっているが、緊張が強く、落ち着かない。
落ち着こうとすればするほど、体に変な力が入ってしまう。頭では指示を理解していても、体が言うことを聞いてくれないのだ。俺が操作するQ-アルマは不自然にギクシャクと動き、バランスを崩す。必死に立て直そうとするも、それがかえって裏目にでる。
「まるで二日酔いのロボットみたいだ」
心の中でつぶやく。
「操作終了。護斑、15点」
クラスメイトのため息と失笑が聞こえてくる。顔が熱くなるのを感じた。
「次、
俺は転びそうになりながらも、場所を開ける。Q-アルマは量子技術の集大成。機体を量子化し、収納状態に移行すればさっさと移動できる。だが、慣れない俺にとってはQ-アルマを収納状態に移行させるのは一苦労。周りから失笑されたとしても、Q-アルマを装着したまま移動したほうが早いのだ。
専用スーツを身に纏った氷雨
彼女の操作は流れるように滑らか。Q-アルマと彩姫は、まるで一体化したかのように思えるほど完璧な動きを見せる。周囲のクラスメイトたちも、彩姫の動きに見惚れているようだった。
「まるでバレリーナのようだ」
俺は思わず感嘆する。
「操作終了。氷雨、98点」
実習場に驚きの声が広がる。しかし、当の彩姫はというと、さっさとQ-アルマを収納状態にし、下がっていた。
彩姫の動きを見逃すまいと集中していたため、Q-アルマを展開したままだった俺は、教官に注意される。再び向けられるクラスメイトからの失笑の中、俺はどうにかこうにか収納状態に移行させることができた。
「次からは速やかに収納状態に移行するように」
「はい、わかりました。量子化の練習も必要ですね」
少し自嘲気味に返す。
教官は満足げに頷くと、次の生徒の名前を呼ぶ。俺は邪魔にならないようクラスメイトの輪から少し離れたところに立つ。
誰もが俺よりも滑らかにQ-アルマを動かしているが、やはり彩姫は別格だ。唯一90点台をマークした理由もわかる。そんな彩姫は、他のクラスメイトがQ-アルマを動かす様を興味なさそうに見ている。俺は決意を固めた。
初回のQ-アルマ基礎訓練が終了し、クラスメイトたちが三々五々に更衣室へ戻る中、俺は彩姫に近づく。
「あの、氷雨さん。よかったら、Q-アルマの操作のコツとか気をつけたほうがいい点を、教えてもらえないかな」
彩姫は冷ややかな目で俺を見た。その視線に、思わず身震いする。まるで北極の風に吹かれたかのようだ。
「コツ?そんなものはないわ。才能があるかないか、それだけよ」
その言葉に、唖然としてしまう。まさかの才能主義だったのだろうか。重ねて教えを乞おうとしたが、彩姫の次の一言で、それは飲み込まれた。
「あなたのような偶然の産物に、何がわかるというの?このまま訓練についてこられないのなら、実験施設行きを希望しなさい」
そう言い残し、彩姫は立ち去った。その背中を見つめながら、俺は立ち尽くすしかできなかった。
「才能、か。たしかに、才能なのかもしれない。だからって、諦めていいのか?」
俺は心の中で自問自答を始める。
「クォンタム・コアと適合することがわかってからここまで、ずっと流されてきた。だけど、流されっぱなしでいいのか?いや、よくない。こっからは死に物狂いで努力してやる。努力が才能を凌駕することもあるんだと、あの氷の女王サマに見せつけてやる」
氷の女王の冷たさは、逆に俺の闘志に火をつけた。
「よし、明日からは早朝トレーニングだ。Q-アルマの基本動作を完璧にしてみせる」
俺は左腕のバングルを見つめながら、強く握りしめた。この小さなデバイスが、俺の未来を変える鍵になる。そう信じて疑わなかった。
翌朝、誰もいない早朝の訓練場。俺は汗をかきながら、基本動作の反復練習に励んでいた。
「もっと力を抜いて…そうだ、Q-アルマと一体化するんだ…」
彩姫の滑らかな動きを思い出しながら、何度も何度も動作を繰り返す。
気づけば日が昇り始めていた。疲れた体を引きずりながらも、俺の顔には小さな達成感が浮かんでいた。
「これで少しは上達したはずだ。氷の女王、見ていてくれよ。俺はきっと追いつくから」
そう呟きながら、俺は朝日に向かって歩き出した。この努力が実を結ぶ日を夢見て。
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