試験二日目、第一印象は最悪です!
この手から放たれた魔法は、一撃で受験者を吹っ飛ばした。
私はちょっと呆然とする。
え、弱すぎない?なんかさ、こう、前提条件からして強者揃いなのかと思ってたんですが?会場も静まりかえっちゃってるし、どうしよう。
興奮のあまり震えていた手が、今度は別の意味で震えだす。
どうしよう、相手の人死んじゃってたら。だって、私が使ったのは得意の攻撃魔法。魔力はあんまり使っていないけど、私独自の術式で威力を爆増させたあまり強くないつもりだったやつ。魔法は当然戦争などで相手を殺すことを目的に使うこともある。だから、威力を間違えたら当然人は死んでしまう。試験ではフルパワー使っていいかと思って、浮かれすぎたかもしれない。
実況の人が慌てたように私の二回戦進出をつたえて、私はステージから強制退場させられてしまった。とぼとぼと、自分の控室までの道のりを歩く。
どうしよう。相手の人が死んじゃってて、試験不合格になったら。せっかく頑張って地獄の試練を超えてきたのに。それに、私は人殺しになってしまう。もし、牢屋に入れられたり、死刑になったりしたら?私が魔法に興味を持っても、反対なんてしなかった母を思い出す。うちは母子家庭だから家が裕福じゃないのに、私の為に高い魔導書でもなんでも買ってくれた。錬金薬の材料だって、高額なのに惜しみなく与えてくれて。そんな母に豪華で贅沢な余生をプレゼントしたくて、私はエリートを目指してるのに。
控室でひとり落ち込んでいると、いつの間にか窓の向こうは真っ暗。もう今日が終わるらしい。まだ、控室から追い出されていないなら希望はある。明日に備えて早く寝よう。
精神的なショックによる疲れで、私はあっという間に眠りについた。
ゆさゆさ、誰かが私を揺さぶっている。お母さんかな?ごめん、疲れてるからさ……
「んー……あと十分……」
ゆさゆさ、ゆさゆさ。しつこく私を起こしに来る。おかげでだんだん目が冴えてきた。ぱっちりと目を開けて、いっきに飛び起きる。
窓から差し込む眩しい朝日の中、知らない子がベッドに腰かけていた。
眼が焼き切れるんじゃないかってくらいの美少年。線は細いけど堂々としたたたずまいにどことなく気品を感じる。濃紺の髪はさらさらで、細い一つ結びを背中に流している。騎士のような白い詰襟の服装のボタンと同じ、アメジストのように深く高貴な紫の瞳が、にっこり三日月の形にこちらを覗いていた。
「だ、だ、誰!?」
試験二日目、大絶叫とともに開幕。っていうか、仮にも少女の部屋に無断侵入とかどんな神経してるの!?
「学院からのお知らせを伝えに来たんだ。」
美少年はにこにことこっちを見ている。寝起きにたたき起こされて混乱した頭をひとまず落ち着かせたのを見計らったように、美少年はそう言った。
瞬間、背中にどっと冷や汗が伝う。ああ、ついにか。昨日の試験で問題を起こしたから、処分されるんだ。
カタカタと震えている私を、美少年は面白そうに見つめている。
「そんなに怯えなくてもいいよ。君にとっては、いい知らせなんじゃないかな?少なくとも僕が言われたら嬉しいよ。」
「……聞かせて、いただけますか。」
「うん、いいよ。『魔法学院が運営する試験において、貴殿は類を見ない大変優秀な魔法を行使しました。それを湛え、今後行われる今年度の入学試験のすべてを免除し、首席合格として入学を認めます。つきましては、同封の入学手続きを済ませ、入学式の通達をお待ちください。なお、入学金及び授業料に関しましては、首席の為免除といたします。』だってさ。おめでとう。」
言われた言葉を理解するのに、だいぶ時間がかかる。私が、合格?停止した脳に追い打ちをかけるように、美少年から渡された封筒。中に入っていたのは、首席合格を湛える賞状と入学手続きの書類。目の前で起こっていることを理解するとともに、どんどん頬が熱くなる。
「よっしゃああああああ!!!!お母さん、私、受かった!」
思わずガッツポーズして叫ぶ。
やった。ついに、ついにだ。これで私はエリートになれる。そうしたら、お母さんにもぜいたくな暮らしをさせてあげられるし親孝行もできる。それに、大好きな魔法がたくさん学べる!手の中の封筒は現実にある。魔法じゃない。それがわかるたびに嬉しくなってしまう。
やった、やった、とぴょんぴょんしているうちに、頭に冷静さが戻ってきた。それでようやく、目の前の美少年のことを思い出す。
「誰かは存じ上げないけど、お知らせを伝えてくれてありがとう。少し、恥ずかしい所も見せてしまってごめんなさい。」
「いや、いいんだ。僕がここに来たのには、もう一つ理由があるからね。一つは、君へのお知らせを届けるため。もう一つは、君に会うためだ。」
美少年は美しい微笑みで、じっとこっちを見ている。その直後、今まで座っていたベッドからすっと立ち上がると、私の前に膝をついた。
「僕は、シーカという。昨日の試験を見て、君がどうしても欲しくなったんだ。どうか僕のものになってほしい!」
そんな芝居がかったセリフとともに、こちらを見上げてくる。その顔はやっぱり美しくて、凛々しくて、思わず見とれそうになってしまう……
けど!さすがに聞き捨てならない!
「お断りよ!大体何なの?人に向かって『僕のものになって』って!私は物じゃないのに!それに今まで気にならなかったけど、女の子の部屋に無断で入るなんてとんだ変態じゃない!お知らせをつたえるだけなら別に、廊下で待っててもいいはずよ!ノックするなりなんなりして、部屋にいる私にちゃんと了承をもらってから入るのが正解でしょう?そんな人権を無視したお願いをしてくる変態野郎なんて大っ嫌い!今すぐ部屋から出て行って!」
ものすごく失礼な変態美少年をぐいぐい押して、部屋のドアから外に放る。
「もう二度と私に舐めた態度をとらないことね!これでも首席合格なの。次に失礼なことしに来たら、魔法でぶっ飛ばしてあげるから!」
捨て台詞も追加して、バタンと勢いよくドアを閉じた。
あいつが魔法学院にいなきゃいいけど。在学生とかだったら面倒なことこの上ない。
ーーー
僕は、しばらく状況が飲み込めなかった。渾身のプロポーズを断られたばかりか、変態だなんてひどいレッテルを貼られて追い出されたからだ。
自慢じゃないが、僕は家柄もよく才能もあって見た目もそこそこ。僕に群がってくる貴族の娘や息子はごまんといたし、この顔でしたお願いが叶わなかったことはない。
こんな扱いを受けたのは、生まれて初めてだ。
「ふふ、あは、あはははは!!!!」
勢いよく閉じられたドアに背を預け、早朝の廊下だということも気にせずに爆笑する。
だって面白いじゃないか。僕の見た目すらほだされず、あそこまで毅然とした態度を崩さない子なんて、今までいなかった。それに言い分は最もなことばかり。唯一の間違いは、僕の見た目から判断したんだろうけど、僕が男だと思っているところかな。
「ますます欲しいじゃないか。あんなに面白い子。」
思わず唇をぺろりと舐める。
「さて、じゃあ次席の合格をもぎ取って、彼女とお近づきになるところから始めなくちゃ。」
僕は廊下を歩きながらうーんと伸びをする。これからケラシーをどうやって手に入れるかに想いを馳せながら。
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