第3話

『では、インフルエンサー兼社長の鳳 陸斗さんにインタビューを行っていきたいと思います。鳳さん、本日はお忙しい中、お越しくださり、誠にありがとうございます』

『いえ。本日はよろしくお願いします』


 時刻は22時。子供たちは皆就寝し、夜の休憩時間を使って優雅に紅茶を飲んでいると、テレビから流れる声に反射的に視線を向けた。


 最後にその名前を聞いたのは数十年前だというのにすぐに分かった。我ながら抜群の記憶力だ。これも、3年間と言う短い期間ではあるものの深い愛情の元で育て上げた子供だからだろう。


『鳳さんは16歳にして起業。それから数々の事業を立ち上げては成功させてきた逸材です。どうして起業なさろうと思ったんですか?』

『恥ずかしい話ではありますが、ちょうどその年に父親と喧嘩して家を出ていったんです。本当は大学受験をする予定だったのですが、金銭的な面を考え、高校のうちに起業して稼いでから入ろうと結論づけました。ただ、初めての事業でいきなり成功を果たし、多忙な日々を過ごすことになって大学入学は叶わなかったんですが』

『でも、こうして今があるのですから、高校の時点で起業したのは正解だったかもしれないですね』


 インタビュアーは鳳さんとの会話を盛り上げようと必死な様子だ。インフルエンサー兼社長と友達、あわよくば恋仲になれたらいいな。そんな風貌が垣間見える。


「隼人くんがテレビを見ているなんて珍しいね」


 テレビに熱中していると、同僚である『北馬 流星(きたば りゅうせい)』がやってきた。彼も今休憩に入ったようで俺と同じく紅茶の入ったカップを手に持ってやってきていた。


「今ちょうど育て子がインタビューをしていてな」

「へー、てか鳳社長じゃん。かなりの有名人だよ。まさか隼人くんの育て子とは。この子、高校時代に家出してるんだよね。ネットでは不良少年って呼ばれているらしいよ」

「こんな時代にまだそんなこと言っている奴がいるのか。きっと投稿者は70から90代の老人だろうな。高校時代で親元から離れられるようになったのは不良ではなく優秀だ」

「仕方ないよ。その時代の人たちはまだ出生時代の人たちだからね。作生時代の今にはマッチしていないんだよ。でも、大丈夫。もうそろそろ作生時代の人間が人口の全てを担う。そうすれば、人類は加速度的に進化することは間違いない」


「そうだな。ただ、懸念すべきは暗示の力が30代を超えたあたりから鈍っていることだろう。鳳 陸斗の父親である鳳 翼も作生児だ。その彼が鳳 陸斗と喧嘩することになると言うのはそう言うことだろう。まだまだ改良の余地はありそうだな」

「隼人くんはいつも冷静な目で分析しているね。そんなんだから、笑顔で振る舞っても、変なオーラが出ちゃうんだよ」

「うるさい。もうそろそろ休憩時間は終わりだ。仕事場へ戻る」


 冷めた紅茶を一気に飲み干し、カップを捨てると自分の仕事場へと足を運んでいった。人様から授かった命を管理しているこの場所は厳重な作りになっている。パスワードやカードキーを使って扉を開け続け、ようやく自分の仕事場に辿り着いた。


『生きるためには欲望は必須である。しかし、飢え過ぎた欲望は自身を破滅へと導く』


『人に与えるものは大成する。しかし、人に与え過ぎたものは大敗する』


 部屋にはアナウンスが流れていた。聞き過ぎれば頭が痛くなるような言葉だが、幾重にも重なる言葉は俺にはただの音にしか聞こえない。アナウンスは部屋に無数に存在する筒状の装置へと各々語りかけている。


 ここは作生時期の子が管理されている場所だ。育児時期の子たちは現在就寝中であるため侵入が禁止されている。何かあれば、四六時中管理している監視カメラがこちらへと通知してくれるため問題はない。


 装置の中には羊水に浸された『赤ん坊の姿』がある。

 赤ん坊にはへその緒が取り付けられており、それが装置の最上部へと繋がれている。ここを伝って赤ん坊たちに栄養を届けている。『人工子宮』とでも言うべきだろうか。


 遺伝情報を解析した後、その情報をもとに装置内で赤ん坊が作られる。装置内の空間は広いため赤ん坊は動きやすく、体が成長しやすくなっている。


 ここにいる赤ん坊はすべて作生依頼があった夫婦の遺伝情報を元に作った。

 羊水内にいる赤ん坊は各々『睡眠学習』を受けている。学習といっても、社会で生きていく上で必要な内容をただひたすら暗示させているに過ぎないのだが。


 俺は椅子に座りながら資料を読んでいた。

 ふと一番近い装置からアナウンスの内容が聞こえてくる。それはきっと、鳳 陸斗が父親と喧嘩したきっかけとなる暗示だったろうに思う。


『親は子に劣る。しかし、子は親なしでは十分な成長はできない。だからこそ、十分に成長するまでは親の命令に従う必要がある。ただし、十分に成長してからは親の反対があっても自身の信じる道を進め。その道の境界線をミキリと呼ぶ』


 世間では、作生は悪性な遺伝病を取り除くための『消極的優生学』として知られている。

 でもそれはただの口実で、実際は優良な人間を作り出す『積極的優生学』を大いに取り入れている。誰も苦しまない平和な世界を実現するためには、健康であるとともに、知性と行動性と協調性に優れた人間を作り出す必要があるのだ。

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【短編】滅びゆく出生、興りゆく作生 結城 刹那 @Saikyo-braster7

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