15
散々飲んで、ルルちゃんの部屋を出たのはもう夜が明けてからだった。私の始発の時間に合わせて、ミシマも部屋を出た。私は、それがちょっと意外だった。だって、ミシマはルルちゃんと二人きりになりたいだろうから。
「駅?」
ルルちゃんに見送られて部屋を出、アパートの前の道に降りると、ミシマがそう端的に首を傾げた。
「うん。」
頷いた私の前に立って、ミシマが歩き出す。送ってくれるらしい。
「酒、強いのな。」
ぼそりとミシマが言った。
「そうかな?」
「強い。結構。」
バーテンのミシマが言うんだから、そうなんだろう、私はなんとなく誇らしい気分になって、まあね、と返した。ミシマは肩越しに振りかえって、微かに苦笑した。
「あんた、変わってる。」
「どこが?」
「なんとなく、全体。子供みたいなのに、酒強いし、ルルのことも全然平気だし。」
「平気って、なにが?」
「レズ。大抵は、だめだぞ。」
「だめって?」
「気味悪がって、逃げる。」
「……そんなこと、」
「あるよ。」
ずっとルルちゃんを見て来たミシマが言うんだから、そうなのかもしれない。私は、曖昧に頷いた。
「こども、だからかな。」
「ん?」
「私、こどもだからかも。ひとを好きになったこととか全然なくて、気味悪がるとか、そういうのもよく分かんないのかも。」
ミシマを見ていると思う。私は本当は、ひとを好きになったことなんか全然なくて、この前の失恋だって、大した痛手ではなくて、ミシマが傷ついたり苦しんだりした分の、傷も苦しみも知らない私は、全くのこどもなのではないかと。
ミシマの大きな手が、不意に私の頭の上に乗っかり、くしゃりと髪を撫でた。それは、本物のこどもにするみたいな仕草だった。でも、私がちっと嫌な気分にならなかったのは、それが親しみの表れみたいな感じがしたからかもしれない。
「いいことだよ。ずっと、子供でいろよ。」
見上げたきれいな横顔は、静かに微笑んでいた。
私とミシマの間には、やっぱり目に見えないルルちゃんがいて、その分だけ会話が円滑みたいだった。
ルルちゃんの部屋から駅までは、5分くらいしかかからない。ミシマは駅までつくと、じゃあ、と、軽く片手を上げた。そして、そのまま帰ってしまうのかと思っていると、律儀に私が改札をくぐり、見えなくなるまで見送ってくれた。私は時々振り返って手を振った。ミシマも振り返してくれた。私は、やっぱりこのひとのことが好きだ、と思った。
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