14
その晩、私たちは朝までそろってお酒を飲み続けた。ルルちゃんとミシマは、よく食べ、よく飲んだ。私はほとんど食べられなかったけれど、お酒は飲んだ。二人のバーテンが、腕を競うみたいに作ってくれるカクテルは、どれも絶品だった。
「贅沢。」
何杯目かも分からない、とにかく美味しいピンク色のカクテルを啜りながら、私が感に堪えずに発した言葉に、ルルちゃんはくすぐったそうに笑った。ラグの上のクッションに座っていたはずの彼女は、いつの間にかソファの私の隣に移動していた。ミシマは、当たり前だろ、と鼻を鳴らした。彼もいつのまにかソファに移動してきていて、二人掛けのソファの肘掛部分に腰を引っかけていた。ミシマは相変わらず大きなグラスに入れたジントニックを飲んでいて、ルルちゃんは私と同じお酒を飲んだ。いつも、ルルちゃんはそうだ。お揃い、と笑う彼女は、掛け値なしにかわいらしかった。二人に挟まれる格好で座る私は、居心地がいいのか悪いのか相変わらずよく分からないまま、それでも席を立つ気にはなれないでいた。
「つきこさん、全然食べてなくないですか? お腹空いてたんじゃなくて?」
ルルちゃんが、私が買い物かごに入れたサラダパスタがまだ冷蔵庫に入っていることに気が付いて、不思議そうに私を見た。私は、コンビニから帰ってきて数時間たっても、生ハムを二枚齧っただけだった。
「酒飲んだら食えないタイプなんじゃないのか?」
黙ってしまった私をちらりと見て、ミシマがどうでもよさそうに言った。私は、確かにその言葉に救われた。
「そうみたい。なんか、お腹空かない。」
ソファの肘掛に置かれたミシマの白くて大きな手に、触れてみたかった。でも、拒絶されるのが怖くてそれができなかった。
ルルちゃんが、納得したんだかしていないんだか曖昧な顔をして戻って来て、燻製チーズの袋を開けた。ミシマが私の頭越しに手を伸ばしてチーズの袋を漁る。ルルちゃんもミシマも背が高いから、挟まれた私は本当に子供みたいだった。
「ルルちゃんはいっぱい食べるね。」
誤魔化すみたいに言うと、ルルちゃんはなんだか得意げに笑った。
「大食いは昔からなんです。」
見上げると、ミシマも笑っていた。多分、二人には、大食いにまつわる笑えるエピソードがあるのだろう。
切ない、と思った。そして、こんな思いをするのははじめてだな、と。それは、元彼と付き合う前も、付き合っていた頃も、振られた後も含めて。
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