13

 コンビニまで、三人で並んで歩いた。車通りのない細い道。静かで、真っ暗だった。ルルちゃんは、ミシマがその場にいないみたいにふるまった。ミシマも、その扱いには慣れているようだった。だから、戸惑っているのは私だけ。いつも通り、私の大学の話など聞きたがるルルちゃんに応じながら、私はミシマの様子を窺わずにはいられなかった。右隣のミシマは、私を挟んで反対側にいるルルちゃんに気が付かれないように、こっそり苦笑してみせた。こんなの、どうってことない、って言うみたいに。私は、どんな表情も返せなかった。本当はどうってことなくなんかないことを感じ取れるくらいには、ミシマの無言の空気感は重たかった。ルルちゃんだけが、それに気が付かない。もしくは、気が付かないふりをする。そのどちらなのか、私には分からない。

 コンビニまでは、5分でついた。ルルちゃんもミシマも、思いついた順、と言った感じで、適当に床に置いた買い物かごに食べ物を放り込んでいった。

 「つきこさんは、なに食べたいんですか?」

 ルルちゃんに笑顔で訊かれた私は、慌ててサラダパスタをかごに入れた。本当は、別になにも食べたくなかった。スナック菓子をかごに入れながら、ミシマは私を見て、ちょっとだけ唇の端を持ち上げた。ミシマには、本当は私が なにも食べたくないことが分かってしまっている、と思った。

 ルルちゃんとミシマは、レジの前で当たり前みたいに二人で会計を割り勘した。私が自分の分を出そうとすると、二人は同時に、大人に出させとけばいい、と言った。

 「学生さんなんですから。」

 と、ルルちゃんは笑い、ミシマは特になにも言わずに荷物持ちをつとめた。私は、居心地が悪いような、いや、これ以上もなくいいような、ちょっとよく分からない気持ちになりながら、二人の背中にくついて店を出た。店の外は相変わらずの熱帯夜で、絡みつくような熱気に私は眉をしかめた。けれどルルちゃんは、むしろ気持ちよさそうに軽く伸びをした後、ミシマに向かって、思い出すねぇ、と、ふざけた感じで言った。

 「昔、こいつと家出したことあるんですけど、こんな感じの熱帯夜だったんです。」

 そう、ルルちゃんは私に笑いかけた。

 「駅で捕まって、こいつだけぼこぼこに殴られて。……懐かしいねぇ。」

 さっき、ミシマにも訊いた話だった。ミシマはルルちゃんの台詞についてはノーコメントで、表情だって変えなかった。でも、さっき多分ミシマも、この気温と空気の匂いに記憶をよみがえらせて、家出した時の話をしたのだろう。私は、胸を締め付けられる気がした。共有した記憶の量。結局それには勝てない気がして。

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