12
ルルちゃんは、ミシマをソファから無理矢理立たせ、代わりに私を座らせた。私が座っていたラグの上のクッションにすら座らせてもらえず、ラグに直座りしたミシマは、不満そうにルルちゃんを見た。いつもなら私の隣に屈託なく腰掛けるルルちゃんは、クッションを引き寄せて、ミシマの横に、人一人分の距離を置いて座った。
「お酒、ミシマが? お腹、空いてませんか?」
「うん。……お腹、ちょっと空いたかも。」
本当は、お腹なんて空いていなかった。失恋後の食欲不振で幾分小さくなった胃には、ルルちゃんが持って帰ってくれた大ぶりの鯛焼きで十分だったのだ。それでもお腹が空いたふりをしてみたのは、なんだか間が埋まらない気がしたのだ。三人で、この部屋で、つまむ食べ物くらいなくては。
だったら暇を告げて帰ればいいだろうとも思ったけれど、それを嫌がる自分がいた。ここで帰ったら、もう二度とミシマには会うことがないかもしれない。ルルちゃんにえらく執心しているミシマだから、今のところは私に興味を示しているけれど、ここで引き上げるような女だったら、ルルちゃんとの仲がその程度だったら、ミシマはその興味を一気に失うかもしれない。
「つきこさんがお腹空かせてるなんて、珍しい。」
ルルちゃんはそう言って、私の目を見て笑った。それは、私のことを、かわいくて仕方がないと思っていてくれているのが、だだ漏れになっている笑顔だった。私は、その顔がミシマに見られていなければいいな、と確かに思ったけれど、それ以上に、ミシマに、見ていてくれ、とも思った。見ていてくれ、あんたが大好きなルルちゃんは、こんなに私のことを好きだんだ。だから、もっと私に関心を持ってくれ。
「なに食べますか? コンビ二行くか、ピザかなんか頼むか。どっちがいいですか?」
コンビニ、と、私は答えた。別にお腹は空いていないし、食べたいものもないけれど、この部屋で三人でピザを待つのも気まずい気がして。
「じゃあ、行きましょ。ミシマは? 来る?」
「行くよ。」
ルルちゃんは立ち上がると、ちょっと待っててください、と言って寝室に引っ込んで行き、すぐに青地にレース模様の薄手のワンピースに着替えて戻ってきた。私とミシマは、その間一言も喋らなかった。本物のルルちゃんが帰ってきてしまったら、私たちの間にいて会話を円滑にさせていた、目に見えないルルちゃんが消えてしまって、その結果会話が全くできなくなってしまったみたいだった。
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