16
ルルちゃんが泣いたのは、夏祭りの夜だった。やっぱりうんざりするような熱帯夜だったけれど、私とルルちゃんはすっかりはしゃいだ、その後だった。
夏の真ん中の夜、ルルちゃんの部屋に一回集まって、その後、私とミシマとルルちゃんは、近所の神社でやっている夏祭りに出かけた。ルルちゃんは、浴衣をワンピースに仕立て直したみたいな、きれいな水色のサマードレスを見ていた。私はいつも通りのTシャツジーパンで、ミシマもいつもと変わらない黒っぽい格好をしていた。
「なに食べよっかなー。つきこさんは? なに食べたいですか?」
食べるの大好きなルルちゃんは、いつも食べ物の話ばかりする。幾度か重ねた三人の夜の中で、私はそのことにもすっかり慣れていて、いっつもルルちゃんは食べ物ばかりね、と、彼女をからかった。
「だって、たこやきとか、やきそばとか、チョコバナナとか、りんご飴とか……、」
数え上げていくルルちゃんを笑って見ながら、私は隣を歩くミシマを見上げた。ミシマは、暑いのも人ごみも嫌いだ。だからちょっと不機嫌で、その横顔はいつもよりいささか硬かった。
「ミシマは? ミシマはなに食べる?」
るんるんのルルちゃんが訊いても、ミシマは無視を決め込み、暑いな、と呟いて真っ黒いだけの夜空を見上げた。
神社のお祭りは、そこまで規模が大きい訳じゃないけれど、櫓が組まれて、周りには盆踊りの輪ができて、参道には出店が肩を並べていた。ぎゅうぎゅうの人ごみにミシマはもちろん眉を寄せたけれど、私とルルちゃんはかなりテンションが上がった。
手始めにヨーヨー釣りをして気分を高めようとしたものの、私もルルちゃんもひとつもヨーヨーを捕まえられなかった。それなのに、私たちに無理やりこよりを握らされて釣りに出されたミシマが、あっさり三つ、水風船を捕まえた。水色、白、ピンク。ルルちゃんはピンク、私は白、ミシマは水色の水風船をとり、私とルルちゃんは、じゃかじゃかと水風船をついて遊んだ。
「器用だね、ミシマは。」
私が尊敬の念を持っていうと、ミシマは首を傾げ、そうでもない、と答えた。私はいつものミシマの様子を思い浮かべた。いつの様子を思い浮かべてみても、ミシマはそこそこ器用だった。それなのになんとなく不器用みたいな気がするのは、肝心な、ルルちゃんへの態度がいつも不器用だからだろう。私は、笑いながら泣きたくなった。
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