ミシマは、水みたいにジントニックを飲んだ。私はそんなミシマの様子を視界の端っこで眺めながら、ゆっくりと水色のカクテルを口に含んだ。毒を盛られる、とまでは思ってないけれど、ミシマが私をよく思っていないのは確かだったから、警戒は、まだ完全に解いてはいなかった。

 「……ルルとは、いつから。」

 低い声で、ミシマが言った。

 「……いつからって……別に、付き合ってるわけじゃないよ。」

 私が正直に答えると、ミシマは眉間にしわを寄せた。その表情は、硬い石でできた彫刻みたいなミシマの顔に、よく似合った。

 「なんで。」

 「なんでって?」

 「なんで、付き合わない。」

 なんでって……。

 私は言葉に困って肩をすくめた。

 「私、レズじゃないから。」

 なるべく軽く聞こえるようにそう言うと、ミシマは切れ長の目で私をじっと見た。

 「あんたも?」

 「『も』ってなに?」

 ミシマは私の問いには答えずに、ぐっとジントニックを飲み干し、しなやかな動作で立ち上がるとキッチンに入って行った。

 私は少し考えて、多分ルルちゃんには前にも、レズビアンじゃない、セックスしたことがある友人がいたんだろう、と思い到った。

 思い到ったところで、どうしていいのかも分からず、からんからん、と、空になったグラスの氷を回して遊んでいると、ミシマがキッチンから出てきて、今度は黄色いカクテルを渡してくれた。自分用にはまた、氷すら入っていない、ジントニックらしきグラスをぶら下げている。

 「ルルのこと、好きになれないの?」

 ソファに座り直しながら、ミシマが言った。その言い方が、問いかけと言うよりは、お願いに聞こえて、私は驚いてミシマを見た。だって、ミシマはルルちゃんを好きなんじゃないのか。

 私の視線の先で、ミシマは俯いて少し笑った。それは、なんだかひどく、無防備で寂しげな表情に見えた。その顔を見てしまうと、私はミシマに、あんたルルちゃん好きなんじゃないの、なんて、訊けなくなった。だから、どう答えたらいいのか少し考えてから、正直に言葉を紡いだ。

 「ルルちゃんのことっていうか、私はおとこのひとがいいかな。」

 ミシマは俯いたまま、そう、と呟いた。その言葉もひどく儚げで、吹けば飛ぶようなものに感じられた。それでそのとき、私は思ってしまったのだ。私も、こんなふうに思われてみたい、と。それは、ミシマに。

 どこまでも不毛な恋が始まる気がした。ただでさえ私は初心者なのに、攻略法も必殺技も知らないのに、なぜか、いつのまにか、ハードモードの波に飲み込まれかけている。

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