私がミシマとはじめて会ったのは、ルルちゃんの部屋でだった。ルルちゃんは仕事に出ていていなくて、私はルルちゃんの部屋に勝手に入り込もうとしていた。ルルちゃんは、基本的には部屋に鍵をかけないし、私もそれを知っているくらいにはルルちゃんと親しくなっていた。すると、部屋の玄関に男物の靴が脱ぎ揃えられていた。私は驚いて、その場に立ちすくんだ。これまでルルちゃんの部屋で、ルルちゃん以外の人の気配を感じたことはなかった。私がその場に突っ立っていると、部屋の奥から声がした。

 「ルル?」

 そして、怪訝そうな顔で玄関まで出てた男が、ミシマだった。

 ミシマは私を見てすぐに、あんたも? とだけ言った。私ははじめその意味を、あんたもルルの友人か、という意味かと思って頷いた。そして、頷いた後のミシマの顔を見て、自分の解釈が誤っていたことに気が付いた。ミシマは、身体のどこかが痛むみたいな顔をしていた。単なる交友関係の話をしているとは思えない顔を。だから多分、そのときミシマは、あんたもルルと寝てるのか、もしくは、あんたもルルの恋人か、そのどちらかを聞きたかったのだと思う。

 私はその、どこかが痛むみたいな顔を見て、悪いことをしてしまった、見てはいけないものを見てしまった、と思った。それで、そのままミシマに背を向けて、ルルちゃんの部屋を出ようとした。それを、ミシマが引き留めた。

 「ルルの友達だろ?」

 ミシマのそれは、まるで自分に言い聞かせているみたいに聞こえた。私は、他人をそれ以上傷つけるのも嫌で、こくりと頷いた。事実、ルルちゃんとははじめの日に寝ていたけれど、それからは普通の友達同士みたいにしか接していなかったから、完全な嘘でもないとも思った。

 「ルルならもうすぐ帰るよ。中で待ってれば。」

 私は、警戒した。見知らぬ男と二人きりになることに対して、当たり前に。でも、その男がルルちゃんの知り合いだということと、さっきの傷をむき出しにしたみたいな表情が、私の警戒心を緩めていたのだと思う。ちょっと迷ってから、私はサンダルを脱いでルルちゃんの部屋に上がった。ミシマは私の先に立って部屋に戻ると、ピンク色のソファに腰を下した。その色彩は、背が高くて肩幅も広く、神経質そうに整った顔立ちをしているミシマには、まるで似合わなかった。私は、どこにどう座ろうか、それとも立っていようか迷ったけれど、ミシマの向かい側に、ラグの上のハート形のクッションを引き寄せて座り込んだ。

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