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ルルちゃんは、にこにこしながら私の隣にふわりと腰かけ、コーヒーを飲んだ。私の表情は、まだまだ硬かったと思うけれど、美味しいコーヒーで気持ちは落ち着いてきていた。
「えーと、名前、なんて呼んだらいいですか?」
ルルちゃんが軽く首を傾げると、長いオレンジ色の髪が肩から胸元に散って、レースのカーテン越しに射す朝日でぱっと輝いた。私は、その様子に見とれながら、月子、と答えた。
「つきこさん。」
ルルちゃんは口の中で確かめるみたいに私の名前を発音し、満足そうに目を細めた。私は、名前も知らない人とセックスしたんだ、と、改めてそのことを実感して、胸のあたりがなんだかそわそわした。
「私はルルです。」
うん、と、私は頷いた。多分、ルルなんて名前は本名ではないのだろうけど、突っ込んで聞くような気持ちにはなれなかったし、そんな仲でもないと思った。
「つきこさんは、学生さんですか?」
「……うん。」
「じゃあ、今日も授業が?」
「……ある。」
「シャワー使ってください。着替えも、私のでよければ着ていってください。」
私は黙って、ルルちゃんと自分の身体を見比べた。ルルちゃんの方が10センチは背が高いし、胸がふわりと大きくて、ウエストもくびれている。私に合う洋服があるとは思えなかった。
ルルちゃんは、私の意図に気が付いたのか、ちょっと困ったように笑った。
「服返してもらうっていう口実で、もう一回会いたいだけなんですけど……だめですかね?」
そんなふうに、真正面から誰かに望まれたことがこれまでなかったので、私は思わず笑ってしまった。笑いながら、内心では泣きたいような、変な気分だった。
「服は、自分の着ていくけど、またお店にでも行くよ。」
泣き出してしまわないように、慎重に言葉を発した。ルルちゃんは、嬉しそうに笑って、看板の頃に来てください、と言った。
私は頷いて、ベッドから立ち上がった。手早くシャワーを浴びて、リビングに置いてあった自分の鞄を掴み、玄関まで出る。ルルちゃんは、コーヒーカップをリビングテーブルに置いて、見送りに来てくれた。
「じゃあ、また。」
「はい。待ってます。」
そんな、短い言葉を交わした後、ルルちゃんはちょっと身をかがめて、軽くキスをしてくれた。私は、素面でおんなのひととキスするのははじめてだな、と思うとなんだか照れて、それについては無反応で玄関のドアを開けた。外はもう、太陽の光でいっぱいで、良い一日になりそうだった。
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