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ルルちゃんの部屋は、かわいかった。薄いピンク色と白で統一されていて、ピンクのソファと白いローテーブルは優雅な猫足だ。私はそれを見て、なんだかさらに落ち込んでしまった。だって、私の部屋は、全然かわいくない。色にも統一感はないし、座椅子とテーブルもごくありふれたものだ。なんだか、そういうのが理由で彼氏に振られたような気さえしてきた。私は、かわいくないから。
「座ってください。お酒、なに飲みますか? 甘いのがお好きみたいですよね。」
私は脱力したまま、かわいらしいソファに座りこんだ。少しの間の後、ルルちゃんは、軽く腰を曲げて私の顔を覗き込んだ。
「なんだか、悲しいことがあったみたいですね。」
優しい口調だった。私は首を左右に振った。ただ、おとこのひとに、もう好きじゃない、と言われただけだ。そんなに落ち込むことじゃない、と、自分で自分に言い聞かせる。そうやって黙っていると、ルルちゃんが更に私の上に屈みこんだ。そして、ふわりと唇が塞がれる。
私は驚いて、ルルちゃんを唖然と見上げた。
ルルちゃんは困ったみたいに笑って、かわいい、と言った。
「かわいい?」
「お店で見た時から、思ってました。」
嘘、と、私はルルちゃんを睨み上げた。私は、全然かわいくない。それは、今日の夕方、もう嫌になるほど確認済みなのだ。私がちょっとでもかわいければ、元彼は私を、三か月で放り出したりしなかっただろう。
「悩んでるみたい。私、かわいいおんなのひとの、そういうのに弱いんです。」
レズビアン、という人種を、はじめてこの目で見た。私が目を瞬いていると、ルルちゃんはまた困った顔で笑った。
「ストレートですよね? なんとなく、分かる。」
ストレート、とかいう単語は多分、おとこのひとを好きになるおんなという意味だろう、と判断した私は、首を縦に振った。これまで、おんなのひとを好きになったことはなかった。
「じゃあ、試してみませんか? 本当に、おんなはだめか。」
ルルちゃんの言い方は、軽い提案と言った感じだった。なのに、その目が真剣に私を見ているので、戸惑った。
「試してみないと、分からないですよ、なにごとも。」
ルルちゃんは、妙に真剣な目のまま、口調だけは林檎でも齧るような軽やかさで私を誘惑した。私は黙ったまま、ルルちゃんを見上げていた。どんな返事もできなかった。頭の中が混乱していて。
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