第10話 PvPへの道
入浴を済ませ、インスタンスから出ていくとアイシャが待っていた。
アイシャは肩を落とし、大きな青い瞳を伏せ加減にして、まるで叱られた子犬のように佇んでいる。その姿は、拗ねた子供の演技にしては少し行き過ぎているようにも見えた。
「あの...マスター...怒っています?」
「そこまで怒っていないから気にするな」
俺の言葉にアイシャは安堵したのか胸をなでおろす。
「アイシャ、一つ質問してもいいか?」
「はい、何でも大丈夫ですよ!」
「各通貨の入手方法を教えてくれ」
「
PvEはPlaye
PvEでは、プレイヤーはゲーム内のモンスターや難関を乗り越えることが目的となる。例えば、ダンジョン攻略や強力なボスとの戦いが該当する。一方、PvPでは、プレイヤー同士が対戦する。アリーナでの一対一の戦いや、大規模な陣取り合戦などがPvPの例だ。
PvEは、協力プレイを楽しんだり、自分のペースでゲームを進められる点が魅力的だ。
PvPは、他のプレイヤーとの競争や戦略的な駆け引きを楽しめる。
通貨の価値で単純に考えると、先ほどの料金表から見るに
判断基準としては、清潔度がどのような人間やAIに課される足枷であるならば、需要は常に一定と考えて良い。供給は不変ではなさそうだから、PvEコンテンツで生み出される
通貨の価値は、需要と供給、市場に流れる総量で基本的には決まる。
まずは価値の高い通貨を得られるPvPコンテンツに参入してみよう。
「アイシャ、俺たちはPvPコンテンツに手を出すぞ」
「えぇ!?つまり私が戦わなきゃいけないってことですかぁ!?」
「いや、俺が戦う可能性がまだあるだろ?」
「では、マスター。マスターのユニークスキルを見てください。」
俺はアイシャに言われるがまま、自分のユニークスキルを見てみる。
ユニークスキル名は“感覚強化”と書いてあり、テキストには以下のように詳細が記されていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の全てを最大2倍まで強化可能
・気配察知の範囲が拡大30m拡大する。
・罠や隠された物体の探知確率が上昇する。
・一度に1つの感覚のみ強化可能、複数の感覚を同時に強化することは不可。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(なるほど、これは確かにPvEでは役立ちそうだが、直接的な戦闘能力は低いな...)
「アイシャのユニークスキルってなんだ?」
(そういえば、アイシャのプロフィールにはユニークスキルの名称は書いてあった気がするが、詳細テキストは閲覧できなかったな)
「私は“筋力増強”です!パンチの威力が高かったり、アイテム所持数を通常よりも多く持てたりするんですよ?」
アイシャは勝ち誇ったような顔でこっちを見てくる。
「わかった、アイシャに任せるよ」
アイシャの表情が一瞬曇った。その瞬間、彼女の目に何か言葉にできない影が宿るのを見逃さなかった。だが、次の瞬間には既にいつもの明るい笑顔に戻っている。
(何かあったのか?)
俺の胸に小さな疑問が芽生える。過去の嫌な記憶でも蘇ったのだろうか。聞きたい気持ちを抑え、俺は黙っていることにした。時が来れば、彼女自身が話してくれるだろう。
「はい、任せてくださいマスター!」
いつも通りのアイシャに戻っていた。
子供っぽくぴょんぴょんと跳ねている。
「今日はなんだか疲れた。俺はログアウトする」
俺の言葉を聞いて、アイシャが少し寂しそうな表情をする。
「そうですか...では、私たちの部屋に戻りましょうか?」
「そんな面倒なことをしなくても、この場でログアウトすればいいと思うんだが」
「...変な人に連れ去られても知りませんよ?」
アイシャが小悪魔っぽい表情をする。
どうやらログアウトをしてもこの世界の肉体はログアウトした場所に残るらしい。
こんな場所で寝てしまったら、何が起こってしまうのかを想像しただけで青ざめてくる。
「わかった。部屋まで戻って寝るよ」
俺とアイシャはツルツルナイトの二階の部屋に行き、部屋のアクセス権が俺とアイシャのみになっているのを確認し、部屋に入る。
以前見た質素な印象そのままの光景が広がっていた。壁は荒々しい木板で覆われ、所々に年月を感じさせる傷や節が見える。
中央には予想通りのダブルベッドが置かれている。
ベッドの横には粗野な作りの木製ナイトテーブルがあり、その上にはオイルランプが置かれている。
壁際には質素な机と椅子が一つずつ。机の上には埃を被った古い帳簿のようなものが置かれている。
窓は相変わらずくすんでおり、外の景色はあまり見えない。カーテンは薄っぺらな綿布で、風が吹くとわずかに揺れる。
部屋全体に漂う古い木の香りと、かすかな埃っぽさが、まるで時間が止まったかのような雰囲気を醸し出している。
俺はベッドに横たわりながら、この素朴な空間に思いを巡らせる。
(今日はいろいろありすぎたな...)
俺が呆けている時に、アイシャが訊ねてくる。
「あの、私はマスター不在の時に何をしていればいいんですか?」
「そうだな...PvEコンテンツをしたり、ここの店の手伝いをして、お小遣い稼ぎでもしておいてくれ」
「わかりました。では、マスターが戻ってくるまでそうしておきます!」
俺はコンソールを表示させ、ログアウトの項目までスクロールさせる。
するとアイシャが俺のベッドに近づき、大きな青い瞳で覗き込んでくる。その瞳には、何か言いたげな思いが宿っているようだ。そして、アイシャは小さく手を振り、寂しそうな微笑みを浮かべる。
俺は目を閉じ、ログアウトの操作をする。意識が徐々に遠のいていく中、アイシャの存在が心地よく残っていた。
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