第5話 混沌のるつぼへ
「なぁ、アイシャ。目的地の場所まで案内をしてもらってもいいか?」
「はい、マスター!任せてください!」
アイシャは迷いもせず、とあるコンソールの前に俺を案内してくれた。
その積極性に少し心強さを感じる。
「こちらがチャンネル、エリア、州、街を選択して転送してくれるコンソールですね」
「なるほど、これか…」
俺は、コンソールの画面を覗き込んだ。チャンネルをざっと眺めてみると、やはり1chから1000chまであった。900ch近くまでほとんど不動産の空きはなく、900ch以降は人気エリア、人気の州、街の空きがない程度だった。
何故か異様に空いているチャンネルは444ch、666ch、564chなど不吉な数字や語呂の悪いチャンネルだった。特にひどいのは444ch。コストが抑えられる場所がいいといったが、アイシャは最初にとんでもない場所を勧めてきたことに少し苛立ちを覚える。
(やはりアイシャの判断力は信用できないのか…?)
「マスター、そろそろ行きましょうか?」
アイシャの声に、夢中になって眺めていた画面から目を離した。
「ああ、ごめんごめん」
どうやらアイシャは察して待ってくれたらしい。感謝しつつも、時々見せる彼女の能力の高さに少し不安を覚えた。一体、彼女の中でどんな思考回路が働いているのだろうか。
アイシャの目が一瞬だけ光った後、転送用コンソールの横に次元の裂け目のようなものが出現した。その光景は、まるでSF映画から飛び出してきたかのようだった。
「どうぞ、こちらに入ってください!」
アイシャがお先にどうぞと手で表現しながら待っていた。その仕草は人間そのもので、AIとは思えないほど自然だった。
俺は、覚悟を決めて次元の裂け目のようなものに飛び込む。
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「うわっ...こ、これが転送か...」
思わず声が漏れる。体は無事のようだが、まだ胃の中がひっくり返りそうな感覚が残っていた。
背後には巨大な掲示板があり、不動産の空き情報、開催されるイベントなどが表示されていた。イベントはチャンネル、エリア、州、街ごとに特色があるらしい。
この空間には俺とアイシャ以外にも多くの人がいて、雑談をしていたり、掲示板を眺めていたりしていた。様々な姿をした人々が行き交う様子は、まるで異世界の駅のようだった。
中には、全身が透明な水晶で出来ているような存在や、複数の腕を持つ多腕の種族、さらには浮遊する球体のような形をした存在まで見受けられた。その多様性に圧倒されながら、俺は思わず足を止めてしまう。
「マスター、大丈夫ですか?」
アイシャが心配そうに尋ねてきた。
「あ、ああ...ただ、凄い光景だなって...」
「ここが564chのロビーですね。ここからさらに転送先を指定して飛ぶことになります」
アイシャが巨大な掲示板の方を向くと目が一瞬青白く光り、また同じような次元の裂け目のようなものが表示された。今度は裂け目の上側にギルド名と60という数字が表示され、どんどん0に向かって減少していく。
「他のユーザーがいる場合は、識別しやすくするためにギルド名と数字が表示されるんです」
アイシャが補足する。その説明の丁寧さに、少し安心感を覚えた。
「よし、行くか」
きっとカウントが0になると消えるので、消える前に俺は裂け目に飛び込んだ。今度は心の準備ができていたせいか、転送時の不快感はやや軽減されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目を開けると、そこは西部劇の街並みだった。しかし、その場に似つかわしくない人物、車、動物がいて雰囲気が台無しだった。特に目を引いたのは、謎の亀甲縛りされた人間に乗って、動き回る人間の姿。そいつが特に雰囲気をぶち壊していた。
(なんだあれは…?)
思わず目を疑う。
(まさか、このエリアの名物キャラか何かか?)
さらに目を凝らすと、サルーンの前で口論をしている宇宙服を着た男性と、カウボーイハットを被った機械の女性の姿も見えた。この不思議な光景に、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
「他のチャンネルのこのエリアも、こんな状態なのだろうか…」
俺が辺りを見渡していると、アイシャが横で口を開いた。
「ここから徒歩で30分程度で目的地に着きます!ちなみに、564chは"混沌のるつぼ"と呼ばれているんですよ。様々な時代や世界観が入り混じっているのが特徴なんです」
「へえ…なるほどな」
その説明を聞いて、少し納得がいった。同時に、これからどんな奇妙な光景に出会うことになるのか、期待と不安が膨らむ。
俺は深呼吸をして、この奇妙な街並みを歩き始めた。ツルツルナイトがどんな場所なのか、そしてこの選択が正しいのか。不安と期待が入り混じる中、一歩一歩を進めていく。
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