第4話
「よし、これで一段落だな」
俺は深呼吸をして、周囲を見回した。
ガチャを引くエリアは、まるで無機質な未来的なカジノのようだった。青白い光が壁面を這い、時折ホログラムのような数字が浮かんでは消える。
「アイシャ、次はどこに行けばいい?」
「はい、マスター!ギルド登録が完了したので、次は拠点を探しに行きましょう」
アイシャは嬉しそうに両手を軽く打ち合わせた。
アイシャの声に導かれるように、俺たちはガチャエリアを後にした。廊下を歩いていると、突然、頭上でアナウンスが響く。
『新規ギルド登録者の皆様にお知らせです。ギルド拠点の決定期限は登録から2週間以内となっております。期限を過ぎますとペナルティが発生しますので、ご注意ください』
「2週間か...結構タイトだな...」
俺は焦りを感じつつも、冷静に状況を分析しようとした。ゲームで学んだ経験を思い出す。
「アイシャ、この世界の不動産市場も需要と供給で価格が決まるのか?」
「はい、その通りです。特に人気エリアは高額になりがちです」
俺は財布の中身を確認するように、自分の所持金を念じた。すると、目の前に半透明の数字が浮かび上がる。
――――――――――――――
20,000
50,000
10,000
――――――――――――――
「...予想以上に少ないな」
「マスター、大丈夫ですか?」
アイシャは心配そうに俺の顔を覗き込む。その声に、俺は我に返った。
「ああ、なんとかなる。とにかく、コストを抑えられる物件を探そう」
(本当にこの天然ポンコツAIに頼って大丈夫なのか...)
「...今、ポンコツAIって思いましたよね!?」
アイシャは突然、頬を膨らませて不満げな表情を見せて訊いてくる。
心を読まれたのかと動揺したが、アイシャに質問してみる。
「ギルドの拠点としてどこか借りようと思うんだが、おすすめはあるか?」
アイシャは目を閉じて腕を組み深く考えている素振りを見せる。
演技でやっているわけじゃないだろうな?と心配になってくる。
「マスターの考え方次第で決まってきますね!」
「できるだけコストを抑えたいだけで、他はこだわりないな」
「…で、あれば444chの廃墟エリアの端がおすすめになります!」
「444chの廃墟エリアってなんだ? そんなところにギルドを構えるところあるのか?」
「大体、ポルノ依存者、薬物依存者、多様性に富んだ方々が住んでいる地区ですね。野良AIがよく税金が払えなくなって連行されていくのを見ることができますよ?」
アイシャは淡々と説明するが、その目には少し悲しみの色が見える。
俺は眉をひそめた。確かに安そうだが...
「流石にそこまでひどい環境にギルドの拠点を構えたくはないな。安全面も考えないと」
そうだ、値段が安いのには何かしらのカラクリがある。わかりきってはいたが、アイシャの提案する物件は極端すぎる。
「なら、建物の住人のクセがありすぎて忌避されているような物件はないだろうか? 比較的安全で、かつ安い」
「では、調べてみます」
突然アイシャの青色の目が光り輝く。
「目が光っているのは…仕様ってやつか?」
「私たちAIは、データベースにアクセスしたり、高度な演算処理を行うときは目が光る仕様なんです。」
アイシャは少し得意げに説明する。
「へぇ、面白いな」
「あっ、マスター。ちょうど良さそうなのがヒットしました!」
アイシャは興奮した様子で報告する。
「どこだ?」
「564ch、ウエスタン・エリア、ナイトフォール州、ノクターナルタウン、ネオン通り、2番地、建物名はツルツルナイト。オーナーはジューシー・マスカレード」
「ch」はチャンネルの略で、MMOではよくあるサーバーのことを表す。564chは比較的新しいサーバーで、まだ開発途上の地域が多い。噂によると1000chまで存在しているらしい。「ウエスタン・エリア」は西部開拓時代をモチーフにした地域だ。
「ツルツル...ナイト?」
俺は思わず聞き返した。
「それに、ジューシー・マスカレードってオーナー名も...」
「何か問題でも?」
アイシャは首を傾げて、純粋な好奇心を込めて聞いてくる。
「いや、その...なんていうか、すごくあからさまな名前だなと思って」
俺は言葉を選びながら答えた。
「もしかして、その建物って...特殊なサービスを提供する場所なのか?」
「特殊なサービス?」
アイシャは無邪気に聞き返す。その表情からは、本当に理解していないように思える。
「建物の説明によると、夜の社交場となっていますが...」
(風俗店なのかバーなのかは、実際に見てみないとわからないか...)
(でも、そういう場所なら家賃は安いかもしれない。それに、いろんな情報が集まりそうだし...)
「わかった。その物件、見に行ってみようか」
アイシャが検索結果を出してくるのが速かったので、聞いてみる。
「...ところでその検索速度ってAIにも個人差があるのか?」
「もちろんですよ!私は元々裏方専門でこのような業務を行っていましたから少し早めに処理できるってだけです!」
アイシャは誇らしげに胸を張る。
推測するにアイシャは以前、バックオフィス業務を担当していたように思える。
今までの情報を基に考えると、過去の経験があり、年齢が5歳ということだからどこかのギルドが手放して、競売にかけられたが買い手がつかずガチャの景品の1部に組み込まれたのだろう。
なぜ、ここまで調査のできるアイシャを手放したギルドがいるのか、そして競売にかけられたときに買い手がつかなかったのか?疑問は増えていくばかりだ。
要するに、アイシャが肝心なところで天然ポンコツAIムーブをするからダメだったってことか?
拗ねられても困るのでとりあえず、褒めておこう。
「なるほど、凄いなアイシャ。頼りにしているぞ」
俺は少し安心しつつも、次の問題に頭を悩ませる。この物件を見に行くべきか、それとも他の選択肢を探すべきか。2週間という期限が頭をよぎる。
「アイシャ、時間があまりないんだ。他にも候補はあるか?」
「はい、もちろんです!他のchも含めて探してみましょうか?」
アイシャは熱心に提案する。
「ああ、そうしてくれ。でも、まずはこのツルツルナイトを見に行ってみよう。他の候補は移動中に考えておいてくれ」
アイシャは元気よく頷いた。
「了解です、マスター!...では、ジューシー・マスカレードさんの建物、ツルツルナイトへ向かいましょう!」
俺は不安と期待が入り混じった気持ちで歩き出した。この選択が正しいのか、アイシャは本当に信頼できるのか、そして、2週間という期限内に良い拠点は見つかるのか...答えはまだ見えない。だが、一歩ずつ前に進むしかないのだ。
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