第2話
視界が明瞭になっていくと、俺は広いロビーのような場所に立っていた。
天井はとても高く、壁面には幾何学模様が浮かび上がっては消えていく。しかし、予想に反して人の姿はなく、ただ無機質なコンソール画面と電子掲示板が点在しているだけだった。無機質な空間にどこか寂しさを感じる。
大体、キャラクターメイキングやステータスを決めるはずだが、そのような案内は来ない。
疑問に思いながらも周囲を一瞥すると鏡があるのに気が付いた。
鏡の前に立つと、そこに映っていたのは現実世界の自分を20代前半にしたような姿だった。
「なんだよ、見た目くらい好きにしたっていいじゃないか」と心の中で呟く。しかし、今はそれどころではない。最初の目的であるギルド作成を済ませなければ。
田舎にある市役所のような雰囲気を感じるこの空間を探索し、すぐにギルド作成用のコンソールを発見した。コンソールの前に立つと、長々とした注意事項とルールが表示された。慎重に目を通していく。
「次へ」と念じると今度はギルド名、作成にかかるコストが表示される。
コストはルーキータイム期間中なので、無料になっている。これ以外にも補助金が出たり、税金の面でも優遇されるから至れり尽くせりだ。クォンテラは新規参入者を歓迎しているようだ。
ギルド名の部分はテストと念じるとその文字が入力がされて、文字を削除したいと念じると入力された文字が削除される。ここで削除と念じると削除ギルドと入力された。このような場面では簡易的に削除したいと念じてはいけないらしい。最終的に削除したい削除ギルドとなってしまったので、一旦すべて消しておく。思考感応型インターフェースの扱いには慣れが必要そうだ。
ギルド名は…しまった。考えていなかった。何も考えずにここまで来てしまった自分にイライラしつつもダメ元で「ランダム生成で構わないので、ギルド案を1つ考えて入力欄に出力してください」と念じてみる。
すると”オムニファイア”と出てきた。もうこれでいいか...いや、本当に良いのだろうか?何度かランダム生成をしていくうちにギルド名を思いつく。
「クォンタム・パイオニアズ...これだ!」
俺は入力し、決定と念じるもエラー表示される。
『既にこのギルド名は使用されているためこのギルド名は使用できません。』
入力チェックに引っかかってしまった。仕方がないので、もう一度考えることとする。
”エニグマ・エンタープライズ”にしておくか。
クォンテラという未知の世界で何をするかまだ決めていないからこそ謎めいた企業という意味を持たせたこのギルド名でいいだろう。
ギルド名はコストを支払えばいつでも変更できるようだし、仮置きでもいいはずだ。
一か八か入力してみて決定を念じると通った。割と使われているのだろうと思ってはいたが、今現在QURSURのデータベース上には登録されていなかったらしい。
というわけでエニグマ・エンタープライズ結成となった。
メンバーは俺一人だが、これから大きく成長させていく。そう決意を固める。
次はメンバーを募集するためにクォンタム・コンパニオン・ガチャというAIを雇用するのに打ってつけのガチャを引きに行く。
ガチャを引くためのエリアがあるので、そこへ向かう。
ガチャを引く場所にたどり着くと五台の契約書がびっしり詰められた機械が設置されており、コインを入れて中央のボタンを押すと契約書とやらが出てくるらしい。
このエリアに配置されているガチャの台は、左から30
中央のボタンを押すとガチャ台がガタガタと震えだし、弱い白い光を放ってピュッと契約書が出てきた。
ゲームの世界で学んだパチンコやパチスロでよくある派手な演出や大昔に流行ったソーシャルゲームの大当たりのような演出ではなかったので、当たりの部類ではないと思った。
中身を確認するために契約書を手に取る。
契約書には、雇用できるAIの基本情報が記載されていた。名前、年齢、身長、体重、ユニークスキル、ジョブ、パーソナリティの概要など、俺はそれらを丁寧に読み進めていく。しかし、ユニークスキルだけは詳細が記載されていない。スキル名だけだった。
アイシャ、年齢は5歳。身長は152cmと高めだ。
AIの場合、生まれ落ちたときには、既に大人と変わらないステータスを与えられているのだろう。
全体的に内容を確認すると、やはりガチャでいう外れ枠だとすぐにわかった。
契約書の最後には雇用するかどうかを決めるためのサイン欄があった。資金の乏しい俺は、「はぁ...期待はずれか」と思いながら渋々サインを行う。
その瞬間、契約書が青白い光に包まれ、瓦解し消えていく。代わりに俺の目の前にピンク髪の身長低めの人間が現れ始めた。
「初めまして!私はアイシャ!あなたが私の新しいマスターだね!一緒に頑張っていこう!」
アイシャの声は、人間と全く変わらず、不思議と温かみを感じるものだった。
「ああ、よろしく。これから二人三脚で頑張ろう」
俺たちの会話が、この広大な空間に響き渡る。
エニグマ・エンタープライズの船出は、こうして始まったのだった。
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