量子世界で始めるギルドマスターのAI共存生活
桜野 涼風
第一章
第1話 クォンテラへの旅立ち
俺、青山翔太は、今日で15歳になった。
中肉中背、切れ長の目に細めの眉。同年代より少し大人びて見える顔立ちだと、周りからはよく言われる。中学3年生という立場にしては「しっかりしている」という評価を受けることが多いが、内心では誰にも言えない焦燥感を抱えていた。
小学生の頃からオンラインゲームの経済システムに没頭し、仮想通貨で一攫千金を夢見てきた俺にとって、今日は人生の分岐点だった。15歳という年齢制限の壁がついに取り払われ、あの"Q-link"への扉が開かれる日なのだから。
量子世界「QUANTERRA」。
その名前を心の中で呟くだけで、胸の奥が熱くなる。友達が学校の話題で盛り上がっている横で、俺の思考はいつもそこにあった。現実世界とは異なるルールで動く場所。AIと人間が共存し、努力次第で誰もが成功を掴める世界。そして何より——年齢の壁に阻まれることなく、真の起業家として勝負できる舞台。
朝から心を落ち着かせようと努めているのに、タブレット端末を手に取る指は微かに震えている。配達状況を確認する度に、期待と不安が胸の内で激しく渦を巻いた。
「まだか...」
独り言が部屋の静寂を破る。勉強机の上には、これまで収集したクォンテラ関連の資料が山となって積まれていた。攻略サイトのプリントアウト、システム解説書、経済データの分析レポート。その全てが、今日という日のための準備だった。
窓の外を眺めながら、俺は想像を膨らませる。クォンテラでは、現実世界で不可能なビジネスモデルが実現できる。デジタルアイテムの売買、AIとの協業、仮想不動産投資...可能性は無限大だ。
そして何より、年齢による制限がない。15歳でも大企業のCEOと対等に渡り合える。実力さえあれば、学歴も経歴も関係ない純粋な競争の世界。
待ちに待ったチャイムが鳴り響いた瞬間、俺の心臓は激しく跳ね上がる。
「よし、来た...」
玄関へ向かう足取りには、これから始まる新しい人生への期待と、未知への不安が混じり合っていた。ドアノブに手をかけた時、掌に汗が滲んでいることに気づく。
配達員から受け取った白い箱は、予想よりも軽い。だが、この小さなパッケージに込められた技術の重要性を思うと、手が震えそうになる。側面で青く光る「QUASAR」のロゴが、まるで未来からの招待状のように見えた。
部屋に戻り、机の上に箱を置く。深呼吸を繰り返しながら、俺は自分の心境と向き合った。
この箱を開けた瞬間から、俺の人生は変わる。現実世界での制約から解放され、本当の意味での挑戦が始まるのだ。
封を切る手に込められた力は、15年間蓄積された想いの結晶だった。
箱の中から現れたヘッドセットは、機能美を追求したシンプルなデザイン。手に取ると、その軽さとは裏腹に、ずっしりとした運命の重みを感じた。
「これが...Q-link」
取扱説明書に目を通しながら、俺は慎重にヘッドセットを装着する。鏡に映る自分の姿は、まるでSF映画の主人公のようだった。しかし、これは映画ではない。俺自身の現実なのだ。
装着感を確認し、接続状況をチェックする。全ての準備が整った時、俺の胸に静かな決意が宿った。
これまでの15年間は、この瞬間のための助走だった。ゲームで培った経験、経済への理解、そして何より成功への飢え。全てを武器にして、未知の世界へ挑戦する時が来た。
「行くぞ、クォンテラ」
目を閉じ、起動ボタンに指を置く。その瞬間、現実が溶解していくような不思議な感覚に包まれる。意識が量子の海へと溶け込んでいく心地よい浮遊感が、全身を包み込んだ。
これが、俺の新しい人生の始まりだった。
―――――――――――――――――――――――――
「これは...」
驚嘆の声が自然と漏れる。目を開けると、そこは暗い洞窟のような空間だった。しかし、それは単なる洞窟ではない。所々に青白い靄が浮遊し、遠くには幾何学的な模様が星座のように輝いている。
空間全体が生命を持っているかのように脈動し、量子の粒子が光の舞踏を踊っている。時折走り抜ける光の筋が奏でる音色は、まるで宇宙の創造の讃美歌のようだった。
俺は言葉を失った。これまで想像していたクォンテラの姿を、現実は遥かに超えていた。美しさと畏怖、期待と緊張。相反する感情が胸の内で渦を巻く。
「なるほど...これがクォンテラか」
呟きが虚空に吸い込まれる瞬間、突如としてGUIインターフェースが出現した。半透明の文字が魔法のように空中に浮かび上がる。
『ようこそ、クォンテラへ』
その文字を見た瞬間、俺の口元に笑みが浮かぶ。長年夢見ていた世界が、ついに現実となったのだ。好奇心と興奮が胸の内で爆発しそうになる。
「次は何が表示されるんだ?」
その思考に反応するかのように画面が切り替わり、利用規約が表示された。文字を追う俺の目には、これまでにない集中力が宿っていた。
「思考感応型インターフェース...調べた通りだな」
システムの仕組みを理解する度に、この世界の技術力の高さに感嘆する。規約に目を通し「次へ」と念じると、プライバシーポリシーが現れた。
内容を確認しながら、俺の心は徐々に高揚していく。ここは本当に、俺が探し求めていた場所なのだ。年齢の制約なく、純粋な実力で勝負できる世界。そして、AIとの協働という新しい可能性が広がる場所。
だが同時に、不安も頭をもたげる。この世界で本当に成功できるのだろうか。現実世界での経験は、果たして通用するのか。
ギルドを立ち上げ、AIとパートナーシップを組み、独自のビジネスモデルを構築する。理論では理解していても、実際にやり遂げられるかは別問題だ。
それでも、俺は諦めるわけにはいかない。これが人生を変える唯一のチャンスなのだから。現実世界では不可能だった夢を、この量子世界で必ず実現してみせる。
深呼吸を繰り返し、心拍数を落ち着かせる。そして、決意を込めて「同意する」ボタンに意識を向けた。
瞬間、空間がガラスのように静かに割れ始めた。亀裂が蜘蛛の巣状に広がり、現実という薄い膜の向こうに真実の世界が姿を現そうとしている。
視界が段々と曖昧になり、最後には完全な暗闇に包まれる。しかし、その闇の中にも希望の光が見えるような気がした。まるで、新たな可能性への扉が開かれようとしているかのように。
これが、俺のクォンテラでの起業への第一歩だった。
表面上は冷静を保っているものの、内なる興奮は隠しきれない。胸の奥で燃える野心の炎が、未知の冒険への期待を高めていく。
そして、この選択がどれほど大きな運命の転換点となるかを、俺はまだ知る由もなかった。ただ、歴史的な瞬間に立ち会っているという確信だけが、全身を駆け抜けていった。
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