量子世界で始めるギルドマスターのAI共存生活

桜野 涼風

第1話

俺、青山 翔太あおやま しょうたは、今日で15歳になった。

中肉中背、切れ長の目に細めの眉、同年代より少し大人びて見える顔立ちをしている。

中学3年生とはいえ、周りからは「しっかりしている」とよく言われる方だ。


小学生の頃からオンラインゲームの経済システムに興味を持ち、ゲーム内通貨で一攫千金を狙ってきた俺にとって、今日は特別な日だ。

何故なら15歳になってようやくあの”Q-link”を使用できるようになるからだ。

量子世界「QUANTERRAクォンテラ」へのアクセス権。もっと幼い頃に夢見ていたものが、今まさに現実になろうとしている。


朝から落ち着かない気持ちを何とか抑えつつ、何度目かわからないくらいタブレット端末をチェックしている。配達状況を確認する度に、興奮度が高まっていくのを感じる。

そして、待ちに待った来客を伝えるチャイムが鳴り響く。


「よし、来たか…」


静かに確実な高揚感を胸に秘めて玄関へ向かう。ドアを開ける手に微かな震えを感じた。


配達員から無機質な白い箱を渡された。側面には「QURSUR」のロゴが青く輝いている。QURSURは量子世界「QUANTERRAクォンテラ」を管理するスーパー量子コンピューターの略称だ。


玄関を閉め、自分の部屋に戻ってからその箱を開けると、必要最低限の機能を処理するために無駄を徹底的に省いたシンプルなデザインのヘッドセットが現れた。


これがQ-link...


手に取ると想像以上に軽量だった。しかし、この小さな機器は持つ可能性の重さをしっかりと感じ取っていた。


取扱説明書を熟読しながら、慎重にヘッドセットを装着する。鏡に映る自分の姿を見てみると額から後頭部にかけて銀色の帯のような装置が巻かれている。


深呼吸を繰り返し、「よし、行くぞ」と心の中で唱え、目を閉じ、覚悟を決めて起動ボタンを押した。


その瞬間、現実が溶解していくような感覚に襲われる。


「これは…凄いな…」


驚きを隠しきれない声が漏れる。目を開くと、そこは暗い洞窟のような空間だった。所々に青白く光る靄のようなものが浮遊し、遠くには幾何学的な模様が宇宙の星座のように輝いている。宇宙空間を思わせるような神秘的な光景に思わず息を吞む。


「なるほど、これがクォンテラか…」


俺の呟きが虚空に吸い込まれていくような感覚。その直後、突如としてGUIベースのインターフェースが出現した。


『ようこそ、クォンテラへ』


その文字を目にし、口元に小さな笑みが零れる。好奇心と緊張が入り混じった複雑な感情が胸中を占める。「次は何が表示されるのだろうか?」と思考した瞬間に画面が切り替わり、利用規約が表示された。


「思考感応型インターフェースだ。前に勉強したことがある。」


冷静に状況を分析する。規約に目を通し「次へ」と念じると、今度はプライバシーポリシーが表示された。


ここまでは順調に進んでいたが、頭の中には様々な疑問が渦巻いていた。期待と不安が交錯し、胸の奥に重圧を感じる。


この世界でギルドを立ち上げて、どんなビジネスモデルを構築できるのだろうか?

デジタルゴールドの採掘?レアアイテム売買?それとも全く新しい何か?


新規参入者に与えられる「ルーキータイム」と呼ばれる特別期間で優遇されているうちにギルドの基盤を築けるのだろうか?


ヒューマンとの交流は?AIとの交流は?

そして、自分はこの世界でどう振る舞い、ギルドマスターかつ起業家としてどう立ち回るべきか。


現実世界では年齢制限に阻まれていた起業の夢。この量子世界なら15歳でもトップギルドを率いて大手企業と渡り合える可能性がある。ゲームの経験を活かして、この世界で成功してみせる。


疑問も心配も尽きないが、まずは目の前のプライバシーポリシーに同意するしかない。

深呼吸を繰り返し、心拍数を整える。

そして、決意を固めて「同意する」のボタンに意識を向けた。


すると、この空間がガラスのようにゆっくりと割れていき、視界が段々と不明瞭になっていき、最終的には視界が真っ暗になった。


これが、俺のクォンテラでのギルド運営ビジネスの幕開けだった。

表面上は冷静を装っているものの、内なる興奮は隠しきれない。

そして、この選択が人生を大きく変えることになるとは、その時はまだ知る由もなかった。

ただ、何か重大な転機が訪れたという確かな予感だけが全身を包み込んでいった。

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