第16話 貴方らしく


才知さんしか考えられない。

どうしたら良いのだろう。

私も大概に変態だとは思うが。

そう考えながら私は溜息を吐く。


そうしていると声がした。

石丸愛(いしまるあい)だ。

同級生のモデルの女子である。

顔立ちは大人びている感じの、だ。


「何、溜息ばかりついてるの。全く。良くないよ。それにしけた面は良くない」

「確かにね。有難う。愛」

「でも何かあったの?何か複雑そうな顔だけど」

「うん。何も無いよ。有難う。ただ...」

「あ、もしかしてぇ?彼氏キュンの話?」


か、彼氏。

いや違うけど。

そうなったら良いなって思うけど違う。

考えながら首を振る。


「彼氏とは思っているけど違うよ。関係性が濃厚なだけ。それだけ」

「それだけ!?つまらないでしょ!」

「つまらない事は無いけど...まあ色々、濃厚な日々だよ。本当に」

「いや、気持ちは分かるけど!何それ?付き合っちゃいなよ」

「確かに軽くはそうは言えるけどね。だけどこれにも理由が沢山あるからさ。付き合うのが難しいよ」

「いや...よく分からないなぁ。幾ら何でも相手も陥落しそうだけど。貴女の行為に」

「それは無いよ。だけど私は諦めてないから」


私はそこまで話してから窓からまた外を見る。

すると愛は前に腰掛けた。

それから愛は前屈みになる。


「何で一緒なの?考えた事ある?」

「何で一緒かって?それは才知さんを助ける為。サポートする為だよ」

「うーむ。本当に良く分からないなぁ。何でそれで...何も起こらないのかそれも謎だなぁ。本当に何も起こらないの?」

「うん。本当に何も起こらない。私がアレなだけかもしれないけど」

「あれっていうのはつまり根性がないって事?」

「...うん」


思い出す。

あの時の事を。

何というか恥ずかしい事ばかりだった。

だけど...まあ。

充実していた気がする。


「...何か馬鹿みたいな事ばかりしてるかなぁ。あはは」

「馬鹿みたいな事?」

「うん。本当に馬鹿な事ばかり。逃してばかり。最悪だよ」

「逃してばかり、か。まあでもさ。死んでいる訳じゃ無いよね?お互いに。だからまだ希望はあるんじゃ無い?」


私にそう言葉を発する愛。

その言葉に涙目で頷く。

すると愛が頭を撫でてきた。


「やるべき事はしっかりやらないと本気で逃げられるよ。愛しい人は愛しいから直ぐに別の人が見つかっちゃうよ」

「...だね。確かにね」

「私はそうして男を逃したしね。あははw」


笑い話では無いと思うのだが。

そう考えながら苦笑いを浮かべる私。

それからチャイムが鳴り、愛は「じゃあ。戻るから」と笑顔で言ってきた。

私はそんな愛に手を振り返す。

そして私は教科書を準備しながらまた外を見てみた。



あっという間に時間は過ぎた。

それから四限目が終わり私は才知さんの元に行く為に立ち上がる。

そして歩き出した。

才知さんの教室に向かい覗く。


「やあ」

「あ。鮫島さん」

「元気か?」

「そうですね。元気です。あ、才知さん居ますか?」

「ああ。鹿野...ってかアイツどこ行った」


鮫島さんは教室を見渡す。

それから首を傾げてから私を見る。


「すまん。トイレかも知れない。そういえば少し前から見てないしな」

「あ、そうなんですね。分かりました。探してみます」

「ああ。そうしてみてくれるか。宜しく」


私を見ながら鮫島さんは苦笑した。

それから鮫島さんは頷いてから笑みを浮かべてから手を振った。

私は直ぐに才知さんを探した。

するとお手洗いから才知さんが出て来た。


「才知さん」

「あ、ああ。三毛か」

「才知さん?何でそんなにビックリしているんですか?」

「い、いや。何でもない。それにしてもどうしたんだ」

「お弁当です。また作りましたので食べましょう」

「あ、ああ。成程。了解」

「?」


才知さんの様子がぎこちない気がする。

何故かは分からないけど。

そう考えながら私は才知さんを見る。


「才知さん。今日はハンバーグ弁当になります」

「ああ。ハンバーグ弁当か。美味しそうだな」

「ですかね?あはは。そうおっしゃって下さり感謝です。作りがいがありました!」

「ああ。有難うな。本当に。美味そうなのは本当に嬉しい気分になるよ」

「はい。そんな先輩の幸せそうな顔を見たら私まで嬉しくなります」


私はそう言いながら才知さんを笑顔で見る。

すると才知さんは私をビクッとしてまた見た。

私は?を浮かべながら才知さんを見る。

才知さんはそのまま歩き出した。


「才知さん。顔が赤いですよ?どうしたんですか?熱...でもありますか?」

「え!?い、いや。そんな事は無い、が。そう見えるか?すまないな」

「すまないって。謝る必要性は無いですが...ただ心配です」

「...すまん。本当に何でもない。有難うな」


才知さんはそれ以上は何も言わなかった。

私は才知さんに付いて行く。

それから才知さんと一緒に屋上までやって来てからドアを開ける。

そして開け放った世界に笑みを浮かべる。


「良い景色ですね」

「そうだな。確かにな」

「才知さん」

「ん?」

「二人で一緒にこの景色が見れて幸せです」


ふとしたそんな言葉だったが。

才知さんはマジに赤面して目を回す。

それから俯いた。

何か本当に様子がおかしい。

一体何があるのだろう。


「...才知さん...?」

「...落ち着いて聞いてくれるか」

「...はい?」

「俺は...お前が好きだ」


その言葉に私は硬直する。

それから私もかぁっと赤くなる。

そして目をパチクリする。

なん、え?


「待って下さい。それは...どういう意味ですか」

「...俺は知らぬ間にお前に惹かれていたらしいんだよな」

「...え」

「...」

「...」


心臓がバクバクする。

それから全てが波打っている。

え?夢じゃなくて?

私は動揺する。

そして「...」となってから俯いた。

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