第11話 2つで1つ

アイツというか。

鮫島は悔やんでいるのだろう。

俺に対してろくでなしを紹介した事を。

その子とは何ら悪くは無いし。

しかもそれはアイツが悪いわけでも無い。


だけど鮫島はそういう性格がある。

親分肌な部分がある。

彼は生き辛い世界を生きて居るのだ。

俺はそんな彼を見ながら...手を良く差し伸ばしている。

だからこそ。

俺達は2人で1つで生きて居る存在だ。


彼は恐れている。

俺が失われるのを、だ。

その事は俺も恐れている。

何故か。

俺が失われた場合。


彼は恐らく不良に逆戻りだ。

想像の範囲だが。

そんな事はさせまいと思っている。

恐らく妹さんも道連れにして自殺するかもしれない。


俺は極端にそれを恐れている。

そう思いながら俺はお弁当を食べる。

牧田は「本当に良い人ですね。鮫島さん」と笑顔になる。

俺は「だな」と柔和になる。


現在、俺達は中庭で2人でご飯を食べている。

牧田の友人も俺の友人も。

配慮してくれた。

有難いもんだと思う。


「...先輩」

「ああ。どうした」

「...私、強く生きてほしいって思います。鮫島さん」

「...そうだな。俺も思うんだけど。...彼は親分肌だけど弱い面があるから。少なくとも考えが推測できない。だから...俺が居なくなったら死ぬかもな」

「...じゃあその希望の星に私もなりたいです」

「有難い事だ。...そうしてくれ。彼はそういうのは大歓迎の様に見えないけど。大歓迎だよ。心ではな」


俺は笑みを浮かべながら牧田を見る。

にしてもお弁当が美味しい。

海苔弁当にこだわっている様だが...凄く調味料の味が丁度いい。

俺に合わせている気がする。


「美味しいよ」

「そうですか?有難う御座います」

「...牧田」

「はい。何でしょう」

「俺は...最低かな」

「...この前の件だったらそれは先輩のせいじゃないです。そもそも誰か分かりませんし。先輩は誇りを持って下さい。絶対に正義があって良かったと思いますし」

「...そうか」


箸が止まる。

何というかそうは言うが俺は暴力的だよな。

そう思いながら俺は箸を止めていると頬にキスをされた。

俺は「!!!!?」となりながら牧田を見る。


「私はそういう先輩も好きです」

「いやおま。ここ学校」

「アハハ。誰も見てなければ何でも良いんですよ」

「あのな...」


俺は赤面で溜息を盛大に吐く。

それから苦笑いを浮かべてから牧田を見る。

牧田はニコニコしながら俺を見ていた。

そしてお弁当を食べ始める。

俺もゆっくり箸を進めた。


「牧田」

「はい。何でしょうか」

「...お前はどうかそのままでな」

「それはどういう意味ですか?私は私です」

「...すまん。俺の彼女と見比べているんだ。ゴメンな」

「ああ。性格の面ですか?」

「そうだな」


その言葉に牧田は柔和な顔をした。

それから俺を優しげに見てくる。

俺はその姿に安心感を持ちながら「...何を聞いているんだろうな。俺」と俯く。

すると牧田は「それが先輩ですから」と笑顔になった。


「私はそういう所に惚れました」

「...俺のこんな部分に?」

「そして私は...貴方に救われたから」

「...救ったって言っても...」

「どんな事があっても私は貴方を捨てません」

「...」


救ったって言っても...あれは。

ただ電車に飛び込んだ彼女について飛び込み誘導路に避難させただけだ。

彼女はかすり傷。

俺は骨折。

だけどそれで済んだ。

でもそれが影響して彼女はヤンデレの様になってしまった。


あの日。


もしあの場所に俺が。

牧田が居なかったら多分知り合わなかったし。

そして牧田は死んでいた。

でもそれは救ったとは言わない。

何故なら当たり前の事をしただけだ。


「私は...貴方にあの日、変えられた。運命を変えられた。だからこそ私は貴方の為に生きると決意しました。出会った時に既に彼女が居たのはショックでしたけど。だけどそれもまた運命」


そう言いながら牧田は俺の手をまた握る。

それから寄り添って来た。

俺はその事に頬を掻きながら反応する。

すると牧田は「先輩の手。大きいですよね」と撫でてくる。


「牧田...恥ずかしいって」

「私はそうは思いません。恥ずかしいのは気のせいです」

「お前な」


俺は言いながら苦笑する。

それから牧田に寄り添った。

そして俺は空を見上げる。

今日は晴れているな。

サンサン日和と言った所か。


「あのですね。先輩」

「...何だ。牧田」

「決着をつけましょう。あの女と」

「牧田は関係無いだろ。...それは俺がやらないといけない事だよ」

「いえ。私も関係あります。...だって私は先輩が好きですから」


牧田はまた柔和な反応をしながら俺を見る。

俺はその言葉に「...しかし」と言い淀む。

そして俺は「もう危険な目には遭わせたくないから」と牧田を見る。

だが牧田は「どんなに危険な目でも私は一緒なら超えれると思ってます」と強い眼差しで俺を見てきた。


「それにまあ危なっかしいですからね。先輩は1人じゃ」

「...お前は本当に良い子だよ。マジに」

「世界で1つの貴方が好きですから」


それから牧田は弁当箱を片付けながら布に包む。

そして俺の手をまた握った。

コイツ本当に手をにぎにぎするのが好きだよな...。

恥ずかしいんだけど。

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