第2話 父親の滑落死


私は親と交渉してこの場所まで引っ越して来た。

それは何故なら私は...こういう情報を入手したから、だ。

彼女と決裂しそうだ、という情報を。

私は先輩に関する情報なら何でも知っている。

何故なら私は先輩を好いているから、だ。


「...お前...当たり前の様に此処に居るが...ロックをどう解除している」

「合鍵です♡」

「...あいか...はぁ!!!!?」

「合鍵を造りましたよ?何というか先輩のお母様とかに話をしていたら造って下さいました♡」

「あのクソ親...」

「クソなんて言ったら駄目ですよ」


ニコニコしながら私は先輩を見る。

先輩は額に手を当ててから「...とにかく。合鍵を持っている事自体がおかしい。...渡してくれるか」と話してくる。

私は当然「嫌です」と否定した。


「...お前な...」

「私は先輩の大切な性奴隷です♡」

「...」

「あれ?間違ってませんよね?」

「間違ってる。全てがな」


先輩は唖然としながらも。

「学校に遅れるし早く出よう」と言ってくる。

私は「はい。先輩」と言いながら表に出る。

それから歩き始めた。

そしてエレベーターを使って下まで降りてからまた歩く。


「先輩」

「...うん。何だ。牧田」

「私、こうして...先輩と一緒なの凄く楽しいです」

「...」

「...先輩がどう思っているか分かりませんが」

「有難うな。そう言ってくれるだけでも感謝だ」


言いながら先輩は少しだけ複雑そうに苦笑する。

私はこの顔を知っている。

いやまあ...私がストーカーまがいの事をしているから知っている。

この顔は...自分の父親の姿と重ねている。


「...先輩。...大丈夫です。先輩は先輩なりに歩んで下さい」

「...お前はきっと全てを知っているだろうから話すけど。...いつか山に向かう事が夢なんだよな。俺も」

「...お父様を探す為にですか」

「ああ。親父が滑落したとされるあの山に行くのがな」


先輩のお父様は滑落死した。

いや正確には滑落の後の...遺体が見つかってない。

だから行方不明のまま捜索が終了している。

書類には、死亡した、と記載されている。

有名な登山家だったらしい。


「...人一番に迷惑を掛けたクソ親父だけど。今となってはその気持ちも少しは分かるんだよな。迷惑を掛けてでもしたい事があったんだなって」

「...」

「...俺は有能じゃないから多分、山関係に就職は出来ないだろうけど。...いつか親父の遺骨を探しに行くのが夢だ。山岳救助隊の様な...そんな感じでな」

「先輩は大きな夢を持っていますね」

「まあな。...そこそこにはな」

「...だけど私は御免なさい。反対します」


私は先輩に死んでほしくない。

危険を冒してほしくない。

そう思いながら私は先輩を見る。

先輩は「だろうな。お前ならそう言うと思った」と言いながら笑みを浮かべる。


「...だけどこれはどうしてもやりたいんだ。幼い頃から...ずっと叶えられなかった夢なんだ」

「...そうですね」

「誰が何と言おうとしてもやる。...誰かがやらなくちゃいけない」

「...」


歩幅が少しだけ縮まった。

そして私は先輩の背中を見る。

そうしていると先輩が私に気が付いた様に背後を見てきた。

私に手を伸ばしてくる。


「牧田。今直ぐの話じゃない」

「...」

「俺は死なない。絶対に。山で死んでたまるかって感じだし」

「...先輩がムキムキなの...その為ですよね。...私も頑張ります」


私はそう言ってから彼を見据える。

先輩は「...そうか」と笑顔になった。

正直、まだ心のしこりは取れない。

だけど私は...そんな彼が大好きになったからストーカーをしている。

誇りに思っている。


「先輩」

「...?...どうした?」

「先輩には...死んでほしくないですから。絶対に約束を守って下さい」

「...ああ」


私は駆け出した。

それから先輩の胸の中に納まる。

私は限りなく先輩が好きだ。

だからこの想いが無駄にならない様に。


「...先輩。これからもストーカーします」

「...え!?いや。それはちょっと...」

「先輩に近付く羽虫は全部殺します」

「え!?い、いや。それもちょっと...」


だって私の先輩だ。

私だけのもの。

そう思いながら先輩を見る。

「まあ冗談です」と言いながら、だ。

どこまで冗談にするか分からないけど。


「な、何だ。冗談か」

「はい。25%ぐらいは冗談です」

「...え...」

「私は全て冗談とは言ってないですよ」

「ま、待って!?たけぇな!?」

「私は75%ぐらいは先輩を愛していますから」


まあMaxで言うと1000%ぐらい愛しているけど。

その感情を全て出すと先輩に迷惑が掛かるしな。

そう思いながら私はニコォッとしながら先輩を見る。

先輩は顔を引き攣らせながら私を見ていた。


そう。

私のものである。

先輩は、だ。

だからもう裏切ったりもしない。

先輩と一緒に一生を遂げると決めたし。

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