第14話 オルランド目線②
真実を知りたくて、俺はエレーナに会うことにした。
女生徒の学舎を歩いていると、ベレッタに声をかけられた。
「ベレッタ・ユイフィールドです。エレーナの親友で、寮の部屋も一緒です。エレーナのことで相談したいことがあるのです」
「なんだ?」
ベレッタは辺りをキョロキョロと伺った。
「廊下では誰かに聞かれてしまいますし、空き教室ではあらぬ噂が立ってしまいます。庭を歩きませんか?」
「そうだな」
俺とベレッタは、学院内にある庭を歩いた。
ベレッタの相談とは、エレーナの男遊びをやめさせたいというもの。
噂は本当だったのだ。
ベレッタに頼んで、エレーナを生徒会室に呼んでもらった。
寮母を通してではなく、最初からこうすればよかった。
「婚約関係の見直しだ。場合によっては、婚約破棄。君の悪行には耐えられない」
祈った。どうか、否定してほしい。婚約を見直すのは嫌だ、俺を好きだと縋りついてほしい。
だが、祈りは届かなかった。
「私は、おとなしくて従順な女ではありません。演じていました。申し訳ありません」
エレーナは婚約破棄を受け入れると言い、そして、
──階段から落ちて、死んだ……。
彼女の死後。
寮母が俺の部屋に来た。号泣しながら、一冊のノートを渡してきた。
「エレーナさんの荷物を整理していて、見つけました。お願いします。読んでください。私は……私は……申し訳ありませんでした! オルランド様の伝言を、エレーナさんに伝えませんでした! エレーナさんからの、会いたいという伝言も揉み消しました。ベレッタさんの父親に、そうするように頼まれて……」
寮母が部屋を出て行った後。
ノートを開いた。それは、エレーナの日記帳だった。
書かれている内容に、俺は愕然とした。
「手紙も贈り物も、一回も届いていない? ポエムの手紙を書いた? そんな手紙、受け取っていない……。どういうことだ。俺は、誰と手紙のやり取りをしていたんだ……?」
俺は、慎重にならないといけなかったのだ。
権力を欲する者たちの動きに気づけなかったばかりに、騙されてしまった。
自業自得と呼ぶには、失ったものがあまりにも大きすぎた。
꙳✧ంః꙳✧ంః꙳✧ంః꙳✧
エレーナの手紙を開封する。便箋に書かれた文字に、衝撃が走る。驚きのあまり、「ふはっ⁉︎」と変な声をあげてしまった。
ラベンダー色の便箋には、可愛らしい文字が並んでいた。踊りだしそうな雰囲気を持った、くだけた書体。
「エレーナは可愛い字を書くのだな。知らなかった……」
しかし、字は可愛いが、内容は可愛くない。
『父から、あなたが私を婚約者に望んでいるとの話をされました。お断りします。それでもあなたが私を望むなら、私にも考えがあります。あなたを惚れさせてから、盛大に捨ててあげます。こんな女、やめておいたほうがいいと思いません?』
俺は大きな口を開けて笑った。
「ハハッ! おもしろい女」
俺に会うのを拒絶する偽手紙も生意気だと思ったが、本人からの手紙も大変に生意気だ。
俺は、真新しい便箋に文字を綴った。
『どうやって惚れさせるんだ? ボードゲームに強いと豪語して、ボロ負けしたのは誰だ? どうせ、また口だけなんだろう?』
エレーナは勝ち気な性格だ。必ずや、反応するだろう。
カゴを仕掛け、餌を撒いて、小鳥を捕まるように。エレーナを捕まえる。絶対に、逃がしはない。
呼び鈴を鳴らして、ロベルトを呼ぶ。
「この手紙を、エレーナに届けてくれ。本人に会って、手渡しするように」
「わかりました。……あのことを伝えなくてもいいのですか?」
「いいんだ。自分が死んだことなど、聞きたい話ではないだろう。それに……」
話しながら、手紙を差し出す。ロベルトは手紙を受け取ろうとし、距離を誤った。ロベルトの手が、手紙を掠める。
「すみません。片目に慣れていないもので。感覚がまだ掴めない」
ロベルトは苦笑すると、今度は手紙を掴んだ。
エレーナの日記帳によって真実を知った俺は、荒れ狂った。
階段から落ちたエレーナの瞼が閉ざされ、体が冷えていった時点で、俺の理性は壊れていた。
そんな俺のために、魔術師ロベルトは禁断の術を使ってくれた。片目を代償にして、時間を巻き戻してくれたのだ。
俺は椅子から立ち上がると、窓の外に目を向ける。
「先生の片目を犠牲にさせたのは、俺の責任だ。この先もいろいろと……すまない」
「掃除は好きですから」
「ハハッ! 掃除……そうだな。エレーナの件に関わった人間は多い。全員一掃する」
仄暗い笑みがこぼれる。
俺も時が戻ったことを知っているとエレーナに教えないのは、ヤバい人間だと知られて怖がらせないためだ。
今度こそ、エレーナを守る。そのための計画はすでに立てている。
まずは、カラスに魔術をかけ、エレーナを襲わせた人間から復讐の幕を開けるとしよう。
♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱ ♱第一章 終わり♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱
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