第4話 大好きな親友との再会

 私はロベルトによく似た人の視界から逃れるために、令嬢たちの輪に入る。


「ご機嫌いかが? パーティーを楽しみましょうね」

「エレーナったら、相変わらず前向きね。楽しめるわけないじゃない。普通のパーティーじゃないのよ」

「そうそう。私、昨日からなにも食べていないの。細く作ったドレスに体を押し込むためにね」


 一番近くにいた三人の令嬢の輪に入っただけだったのだが、その中にアリアがいるのを認めた瞬間、涙腺が崩壊した。


「アリアぁーっ! 会いたかったーーっ!!」

「わわっ! なに⁉︎ 昨日、会ったわよね?」


 アリアに抱きつく。ふくよかな体から、甘い香水が香る。

 アリアは、私の大好きな親友。私たちは、死ぬまで友達でいようと誓った仲。

 けれど、食べることが好きなアリアを、家庭教師のローザは目の敵にした。


「友人とは、高め合う関係でなくてはなりません。アリアのようなブクブクと太った娘に、価値などございません。会うことも、手紙を出すことも、一切禁止します。わたくしに隠れて交流を持ったのなら、外に一晩置かれることを覚悟なさい」


 アリアだけじゃない。ローザは私の友達すべてに難癖をつけて、別れさせた。

 ただ一人、ベレッタだけは絶賛し、彼女との交流は認めてくれた。

 ベレッタは、ピンク色が似合う親切な伯爵令嬢。

 私は十五歳で、親から離れて学生寮に入った。ベレッタはルームメイトであり、たった一人の友達。ベレッタは私を気にかけてくれて、町に誘ってくれた。窒息しかけていた私は、ベレッタの優しさに救われた。

 だが、本音を言うのを許されるのならば、タイミングを考えてほしかった。勉強で追われているときに限って、ベレッタは町へと誘った。煮詰まっていては勉強が捗らない、息抜きが必要だと言って。


(そうかもしれないけれど、町に行ったぶん、徹夜で勉強しないといけなかった。体調を崩すことが多かったのって、絶対、疲れのせいだと思う)


 ベレッタの親切を迷惑だと思う自分に、嫌気が差す。私は性格が悪い。


 そんなことが心に影を落として、シュンと黙り込んでいると、アリアが私の背中を撫でてくれた。

 私は、今この瞬間へと、意識を戻す。


「ありがとう。大丈夫だよ」

「元気がないね。お腹が空いている?」

「えーっと、そうね。満たされていない感覚はある」

「じゃあ、いっぱい食べちゃおう! どうせ私たち、王太子殿下に相手にされないもの。ベレッタが選ばれるに決まっているわ」


 大広間奥の扉が開いた。みんなの目が一斉に扉に向けられる。

 開いた金色の扉から姿を現したのは、舞踏会用の華やかな装いをしたオルランド。黒髪をリボンで一つに結んでいる。

 二年前のオルランドは長髪であったことを思い出す。

 それとともに、オルランドが死んだ目で、「お集まりいただき、感謝する。楽しんでくれ」と、ちっとも楽しそうでない声で言ったことも、記憶に蘇る。


(オルランドがパーティーの開始を宣言してから、料理が運ばれてきたのよね。どんな料理なのかな? そこまでは覚えていないから、楽しみ!)


 懐かしい旧友との再会は、自分が安全圏にいることを確認させてくれた。その安心感からお腹が鳴る。空腹を感じるのは久しぶりだ。


 どんな料理が出てくるのかワクワクしながら、パーティー開始宣言を待っていると、オルランドと目が合った。

 一直線の眉の下にある聡明なエメラルド色の瞳が、ふわっと細まった。


(え? 目が死んでいない。今、笑った?)


 凛とした声が、会場に響き渡る。


「今日は私のためにお集まりいただき、感謝する。堅苦しい話は無しにして、みな、楽しんでくれ」


 オルランドが微笑んでいる。身構えていた令嬢たちは、オルランドの笑顔に緊張が解けたらしい。あちこちから、吐息が漏れ聞こえる。


「はぁー。怖い人って聞いていたんだけど、そうじゃないみたい。安心したー」

「笑顔が素敵! 無愛想な方だと思っていたけれど、違うのね」

「よし! 私、頑張るわ!!」


 私は首を捻る。パーティー開始の宣言が、二年前と違う気がする。けれどそれは、記憶違いで済まされる。しかし、笑っていることについては、どう捉えたらいいのだろう?


 

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