わたしは見習い脱衣婆

第47話 親への悔い

三途の川のほとりは、今日も静かに霧が立ち込めていたが、そこにはどこか後悔と切なさが漂っていた。少女は、今日訪れる魂が、親との関係に悔いを抱えていることを感じ取っていた。それは、愛する者との時間を軽んじた自分への深い後悔と苦しみ――親を大切にできなかった自分を責め続ける思いだった。

「今日やってくる亡者は、親との関係に悔いを抱える者だ。」

脱衣婆の静かな声が霧の中に響いた。親子の絆は、人生の中でも深いものであり、時にその重さが魂に重くのしかかることがある。失って初めて気づく大切さが、後悔として魂に深く刻まれてしまうことがある。

霧の中から現れたのは、若い女性だった。彼女の表情には深い悲しみと、後悔が刻まれていた。彼女は、生前に親に対する感謝の気持ちを伝えることができず、その未練に縛られていたのだろう。

「彼女は、生前に親との関係をうまく築けず、そのことを悔やんでいます。その思いが彼女の心を締め付け、ここに導かれたのです。」

脱衣婆の説明に、少女は彼女の表情をじっと見つめた。彼女が抱える後悔の重さが、その魂を深く縛りつけ、今もなお親への思いに囚われ続けていることが伝わってきた。

「あなたは、親に対してどんな後悔を抱いてここに来たのですか？」

少女は静かに問いかけた。彼女の声は優しく、しかしその言葉はまっすぐに女性の心に届くように響いていた。女性はしばらく何も答えず、ただ地面を見つめていたが、やがて涙を浮かべて話し始めた。

「私は……生前、親のことを軽んじていた……親がしてくれたことに対して感謝を伝えるどころか、時には反発してばかりだった……彼らが亡くなってから、初めてその愛の深さに気づいたんだ……でも、もう感謝を伝えることもできない……」

彼女の言葉には、深い悔恨と悲しみが込められていた。彼女は、生前に親の愛情に気づくことができず、感謝を伝える機会を失ってしまったことを後悔していたのだ。

「あなたが抱えていたのは、親への感謝を伝えられなかった後悔だったのですね。」

少女はさらに問いかけた。彼女がその後悔をどのように感じ、どれほど自分を責め続けてきたのかを理解するために、慎重に言葉を選んだ。

「そう……親がいてくれたからこそ、私はここまで来られたのに……私はそのことを軽んじ、ただ自分のことばかり考えていた……私がもっと素直に親と向き合っていれば、どれだけ親は喜んでくれただろう……」

彼女の声は震えており、その言葉には深い後悔と自己嫌悪が感じられた。彼女は、親への感謝を伝えられなかったことを悔い、自分を責め続けていたのだ。

「親子の関係は、時に難しいものですが、愛と絆は永遠です。たとえ感謝を直接伝えられなかったとしても、あなたがその愛を胸に刻み、自分の人生を彼らの思いと共に歩むことで、魂は救われるかもしれません。」

少女は彼女に向かって静かに語りかけた。彼女がその後悔を超えて、親への感謝を自分の中で生かし、前に進むことができるようにと、優しく言葉を紡いだ。

「でも……私は彼らに直接感謝を伝えられなかった……この思いをどうすればいいのか分からない……」

彼女の声は弱々しく、その言葉には深い無力感と後悔が込められていた。彼女は、親がもういないことを受け入れられず、その喪失感に囚われ続けていたのだ。

「親への感謝を伝えることは、必ずしも言葉だけではありません。あなたが親の愛を胸に抱き、その教えや思い出を大切にしながら生きることで、その感謝は形となります。あなたが親の分まで幸せに生きることが、彼らへの最大の感謝になるのです。」

少女は彼女に向かって優しく微笑んだ。その微笑みには、彼女が親への感謝を胸に抱きながら、前に進む決意を持てるようにとの祈りが込められていた。

「でも……私はどうすればいいのか分からない……親のいない世界で、彼らにどう感謝を示せばいいのか……」

彼女の声には、まだ迷いが残っていたが、その中にはわずかに親への感謝を表現したいという思いが芽生えていた。彼女は、過去の後悔を抱えながらも、親の愛を胸に前に進むことの意味を少しずつ見出し始めていた。

「あなたが親への感謝を胸に、彼らが望んだように幸せに生きることで、親もまたあなたと共に歩み続けます。彼らへの思いをあなたの生き方に刻むことで、魂は救われるでしょう。」

少女は彼女に対して力強く語りかけた。彼女がその後悔を胸に抱きながらも、親への感謝を人生に刻む決意を持つことができるようにと、心を込めて言葉を紡いだ。

しばらくの間、彼女は何も言わずに立ち尽くしていたが、やがて顔を上げた。その目には、わずかに希望の光が宿り始めていた。

「私は……その道を選びたい……彼らの愛を胸に抱きながら、感謝を示し続けるために生きたい……」

彼女の言葉に、少女は微笑んだ。彼女が親への感謝を胸に抱き、前に進むことを決意したことに、少女は安堵した。

「よろしい。あなたが選んだその道が、あなたの魂を救うことになるでしょう。」

脱衣婆が静かに告げると、霧の中から一筋の光が差し込み、彼女の姿を包み込んだ。彼女の表情は次第に穏やかになり、親への感謝を胸に抱いたその顔には、ようやく安らぎが訪れた。

「ありがとう……」

彼女の最後の言葉が、少女の耳に届いた。やがて、彼女の姿は光の中に溶け込んでいった。

「今日の裁きから、何を学びましたか？」

脱衣婆が静かに問いかけた。少女はしばらく考え、静かに答えた。

「親への感謝は、言葉だけではなく、心に刻み続けることで伝わります。親がいなくなった後も、その思いを胸に生きることで、魂は救われるのだと学びました。」

脱衣婆は満足そうに頷き、次の亡者がやってくる準備を整えた。少女もまた、その言葉を胸に刻み込み、次なる裁きに向けて心を整えた。

霧が再び立ち込め、次の魂が訪れる予感が漂ってきた。少女はその静かな風を感じながら、今日の裁きがもたらした教訓を胸に、次なる試練に備えて心を引き締めた。