第1話 初めての裁き

三途の川の岸辺で、朝霧が立ち込める静寂の中、見習いの少女は目を覚ました。初めて迎える朝の冷気が、彼女の体を包み込む。心の中には、初日の緊張感と、これから待ち受ける運命への恐れが渦巻いていた。


「おはよう、今日も忙しくなるよ。」


脱衣婆の厳しい声が、霧の中から響いてきた。少女は急いで立ち上がり、脱衣婆の元へと駆け寄る。目の前には、いつも通りの冷ややかな表情を浮かべた脱衣婆が立っていた。彼女の手には、錆びた天秤がしっかりと握られている。


「今日は、初めてのお前の裁きだ。よく見て学んでおくんだよ。」


脱衣婆はそう言いながら、少女に天秤を差し出した。少女は一瞬ためらったが、その重さを感じながら、恐る恐るそれを受け取った。天秤の冷たい感触が、彼女の手のひらにしっかりと伝わってくる。


「まずは、最初の亡者だ。来るよ。」


脱衣婆がそう言うと、霧の中から一人の亡者が現れた。彼は、やせ細った体で、ぼろぼろの着物をまとっていた。その目には恐怖が宿り、彼が何を恐れているのかは一目瞭然だった。


「この者は、生前にどのような罪を犯したか分かるか?」


脱衣婆が少女に問いかけた。少女は緊張した面持ちで亡者を見つめたが、何も言えなかった。ただ、その姿に悲しみと怯えが浮かんでいることだけが、はっきりと分かった。


「よく見て感じるんだ。この者の過去を、罪を。そして、その重さを。」


脱衣婆の言葉に促され、少女は天秤に亡者の衣をかけた。天秤が微かに揺れ、その動きに少女の心臓も一緒に揺れた。彼女は天秤の動きを見つめながら、亡者の過去に思いを馳せた。


その瞬間、少女の心に何かが流れ込んできた。悲しみ、後悔、そして罪の意識。それは、まるで亡者の記憶が彼女の心に直接触れたかのような感覚だった。彼の罪は決して軽いものではなかった。だが、その罪を犯した理由には深い哀しみが隠されていた。


「この者は、愛する人を守るために罪を犯したのだね。だが、その罪は決して許されるものではない。」


脱衣婆は静かに語りかける。その声には、決して揺るがない冷徹さと、ほんの少しの優しさが交じっていた。少女は、脱衣婆の言葉を聞きながら、自分の心に浮かんだ感情を噛み締めた。


「さあ、これが裁きだ。」


脱衣婆が天秤を掲げると、その重さが決定的なものとなり、亡者の運命が決まった。地獄への門が開かれ、彼はその中に吸い込まれるように消えていった。


少女は、その光景を呆然と見つめながら、心の中に何かが残ったことを感じた。それは、裁くことの重さ、そしてその中に潜む人間の哀しさだった。


「これが、これからお前がやることだ。」


脱衣婆はそう言って、少女に天秤を手渡した。少女は、それをしっかりと握り締め、深く息を吐いた。


「分かりました。私も、裁きを学びます。」


少女は、決意のこもった声で答えた。これからの日々がどのようなものになるのか、まだ彼女には分からない。だが、彼女はこの場所で、脱衣婆としての道を歩み始めることを決意した。


霧が再び立ち込め、次の亡者が現れるのを待っていた。少女の心には、まだ小さな恐れが残っていたが、その中には確かに、新たな使命感が芽生え始めていた。

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