第32話「銀髪とクリスマス」その⑤


「どうしたの二人とも、盛り上がっているようだけれど」


 ちょうどそこへ雪月が戻って来た。


 僕は咄嗟に避妊具の箱をポケットに突っ込んだ。


「な、なんでもないよ。気にするな」

「そう? それなら、私から二人にプレゼントを渡してもいいかしら」


 と、雪月は両手に抱えた紙袋を僕らに見せる。


「あ、ああ。ありがとう」

「じゃあまず金糸雀から。はい、あなたはこっちよ」

「わあっ、嬉しいですお姉ちゃん! 開けても良いですか?」

「良いわよ。次に朝日くん、あなたにはこっちを」


 ウワァ私が欲しかったヘアアイロンだァッ! と金糸雀が歓喜の声を上げている姿を背景に、僕は雪月からプレゼントを受け取った。


「これって……」

「中身、見てみて。気に入るかどうかは分からないけれど」


 雪月に言われるまま、僕は紙袋を開けた。


 中には紺色のマフラーが入っていた。


「マフラー?」

「朝日くん、帰るときによく外で私を待ってくれているじゃない? 寒くなってきたし、こういうものがあれば暖かいんじゃないかと思って」


 少し照れたように雪月は言う。


「あ――ありがとう。使わせてもらうよ、これ。暖かそうだ」


 そんな雪月の表情に一瞬だけ見とれてしまって、返事が遅れた。


 僕の言葉を聞いた雪月は目尻に皴を作って笑いながら、言った。


「喜んでくれたみたいで嬉しいわ。本当は真っ赤なマフラーにしようかとも思ったのだけれど」

「まあ、まだショッカーも現れていないからな」

「赤いマフラーは朝日くんがバイクの免許を取ったらプレゼントしてあげる」

「楽しみにしておくよ。……ああ、そうだ。これは僕から雪月に」


 僕は小さな封筒を雪月に渡した。


「ありがとう。中身、見てもいいかしら」

「もちろんだ」


 僕から受け取った封筒を、雪月は丁寧に開けていく。


 その中身を見て、雪月は笑い声を漏らした。


「ねえ朝日くん、これって」

「え? ああ、図書カードだけど。雪月は本が好きみたいだから、それで気に入った本を買ってくれればいいなと思ったんだ」

「そうなのね、ありがとう。大切に使わせてもらうわ」


 ふふ、と笑いながら、雪月は言った。


「そんなに面白かったか、図書カード?」

「いえ、違うのよ。私のことを考えてくれて嬉しいのだけれど、ただ、小さい頃親戚のおじさんが図書カードをくれたのを思い出しただけ」


 親戚のおじさんか……。


 僕のプレゼントを選ぶセンス、少し古かったのかもしれない。


 図書カードってベストな選択だと思ったんだけどなあ。


 負けるな、僕よ。ドーンと行け。


「ねえねえ朝日さん、私へのプレゼントはないんですか?」


 雪月からもらったプレゼントが相当嬉しかったのだろう、にこにこと機嫌よく笑みを浮かべながら、金糸雀が僕の腕を引いた。


「ああ、一応あるよ。ほら」

「えーっ、なんですかこの包み? 結構大きいですね! わー、ドキドキです……ってこれ、クレヨンじゃないですか! しかも幼稚園生が使うような!」

「いや一応36色の、プロが使うようなやつだよ。お前さ、絵がちょっとアレだからせめて道具で実力をカバーして……」

「ちょっとアレってどういうことですか! もう、失礼な人ですね! 仕方ないので趣味の写生に使わせてもらいます!」


 そんな趣味があったのか……。


 意外だったが、有効利用してもらえそうで何よりだ。


 隣で金糸雀が、しゃせいって絵を描く方ですよ変なこと想像しないでくださいね、とか言ってるけど無視しておこう。


 そのとき、突然雪月のスマホが振動し始めた。


「あら、ママからの電話だわ。ごめんなさい」


 そう言って雪月はスマホ片手に部屋を出た。


 外を見るともう真っ暗になっていたが、街明かりの中、雪がしんしんと雪が降り積もっているのが目に映った。


 ……あれ、こんなに雪降ってて家まで帰れるのか、僕?


 窓に近づき外を眺めていた金糸雀が、僕の方を振り向いた。


「雪、かなりヤバいですよ朝日さん。こんな中外に出るなんて自殺行為ですよ」

「ええ……!?」

「ニュース見てみます?」


 そう言って金糸雀はテレビを点けた。


 大画面で大迫力のテレビ画面にはニュースキャスターが映っていて、過去最大級の寒波による豪雪が――とか言っていた。


 画面の隅には、車が雪で完全に埋まってしまっている姿が中継されている。さっきから表示されているテロップによると、電車やバスもすべて運休になっているらしい。


 僕は窓に近づき、外の様子を見た。


 雪はどんどん強まっているような気がする。


 道路はもう真っ白になっていて、歩道との境目なんて全く分からなくなっていた。


「マジで帰れないじゃん、これ……」


 どうしよう。


 この大雪の中、決死の覚悟で外に出てみるしかないか?


 ちょうどそこへ、雪月がため息をつきながら戻って来た。

「どうしたんですか、お姉ちゃん?」

「ママなのだけれど……今日ね、雪のせいで帰れなくなったらしいの」

「え、そうなんですか? でも……確かに仕方ないかもしれませんね、この雪なら」


 金糸雀は再び窓の外へ顔を向ける。


「外も吹雪みたいになっていて、出るのも危険な状況らしいの。だから朝日くん、雪が止むまでうちにいた方が良いと思うわ」

「ああ、迷惑かけてすまないな。雪、止んだらすぐ帰るから」

「でもこの雪、明日の朝まで止まないらしいですよ?」

「え」


 僕は金糸雀を見た。


 金糸雀はこともなげに、


「ニュースで言ってますって。ほら」


 と言ってテレビを指した。


 画面に映るニュース番組では、確かに『過去最大級の豪雪 明日朝まで』のテロップが出ていた。


「じ、じゃあ僕はどうすればいいんだ?」


 僕の質問に、雪月は少し考え込むようなそぶりを見せた後、言った。


「うちに泊っていけば良いんじゃないかしら」





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