第26話「史上最大の作戦」その⑥


 僕はもう一度ノートに視線を向けた。


 とりあえず僕のノートを写してもらえば何とかなるか? でもこの感じだと、授業もほとんど聞いてないだろうし……。


 どうすれば雪月の赤点を回避できるか考えていると、ふと雪月のノートの違和感に覚えた。


 このノート……ほとんど漢字が使われていない?


 もう一度ノートを何ページかめくってみると、書かれているのは行書体みたいなひらがなばかりで、小学生レベルを超えるような漢字は全くと言っていいほど使われていなかった。


 ということは、まさか。


「なあ雪月、お前ってもしかして、漢字が分からないのか?」

雪月は虚を突かれたように一瞬黙った後で、恥ずかしそうに小さく頷いた。

「実はそうなの。小学生くらいで習う漢字なら何となく分かるのだけれど、それより難しくなるともうダメなのよ」

「だからいつも児童書ばかり読んでいたのか」

「ええ。少しでも漢字の勉強になればと思っていたのだけれど、あまり効果は感じられないわね」


 そうだったのか……。


 確かに、雪月自身も日本語は苦手だと言っていたけれど。


 しかしどうしよう。漢字が分からないのであれば、漢文なんて絶対に解けない。


 何かいい方法はないだろうか。


 どうにか古文や漢文を雪月に分かるようにする方法は――!


 ―――ああ、そうか。


 漢字が分からないなら、漢字を使わなければいいのか。


「雪月、あのさ。お前が苦手なのは日本語の文章なんだよな?」

「そうよ。簡単なものならともかく、漢字がいっぱい書かれているような難しい文章はもうダメね」

「文章が苦手なだけで、言葉の意味自体は分かる……だよな?」

「もちろん。今までもずっと朝日くんとお喋りしてきたじゃない」

「その通りだ。ちなみに、英語の文章は読めるんだよな?」

「ええ。私の成績は英語の点数があるから何とかなっているようなものよ」


 自信満々に言う雪月。


「そうか。じゃあこうしよう。まず僕が試験範囲になっている古文と漢文の文章を現代語訳する。それから雪月は、僕が訳した文章を英語に直すんだ」

「つまり……どういうこと?」

「漢文や古文のままじゃ意味が理解できなくても、英語の文章になっていれば内容は分かるだろ?」

「―――そうね。その通りだわ」

「だから雪月は古典を現代語訳で暗記するんじゃなく、英語で暗記するんだ。そうすればきっとテストでも点数が取れるようになる」

「本当?」

「本当だ。僕を信じろ」

「私にできるかしら」


 先ほどとは打って変わって、今度は自信なさげに俯く雪月。


「できるに決まってる。僕は雪月を信じてる。だから雪月は雪月自身を信じるんじゃない、僕が信じる雪月を信じろ!」

「な――なんだかやれそうな気がしてきたわ!」


 雪月の瞳に力が戻った。


 よし。


 これならきっと雪月もやってくれる。


 そしてクリスマスパーティも開催できる!


「善は急げだ、雪月。僕が現代語訳を読み上げるから、それを英語に訳してくれ!」

「分かったわ。任せて、朝日くん」

「ええとだな、まず『昔、ある男がいた――』」




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